『エボラと倫理的課題:保健計画の策定および対応』パート1 その5

分析と勧告
http://bioethics.gov/sites/default/files/Ethics-and-Ebola_PCSBI_508.pdf

 今回の公衆衛生上の緊急事態 ― そして脅威を感じたときの社会的対応とエボラ上陸症例数は極めて限定されていたという現実 ― により、米国社会は、他国の保健危機がわが国にとっても倫理的な関心となり、公衆衛生的および倫理的な準備が整っていないことが明らかになったときに提起される基本的な問題について再検証を迫られることになった(注80)。米国には倫理的にも国益の面からも、国際保健の増進に寄与し、現在および将来の公衆衛生上の緊急事態に対する世界の動きに積極的に参加する十分な理由がある以上、公衆衛生対策の重要な構成要素として、倫理に関しても検討しておくことが緊急に必要だろう。それぞれの地域で、いま抱えている保健問題に対応できるよう公衆衛生基盤を強化していけば、公衆衛生上の緊急事態が発生したときにその影響を軽減するための準備を整えておくことになるし、実際にそうした事態が起きたとしても、長期にわたる保健、社会基盤の破壊的な打撃を防ぐことにもなる(注81)。保健危機に直面した際に政府や関係機関が柔軟に対応できるようにするには、幅広い分野にわたって能力強化を進めていく必要がある。いかなる公衆衛生上の緊急事態であっても、何が重要になるかは起きてみないと分からないからだ。

勧告1
相互に結びついた世界では、倫理的な理由からも、国益をまもるためにも、米国政府には公衆衛生上の緊急事態に備え、協調して危機に対応するための世界の動きに加わる責任がある。


 強力な国際的保健基盤、および米国内の保健基盤の確立は、公衆衛生上の緊急事態とその後の短期、長期の影響に対し、効果的に対応するうえで不可欠である(注82)。国際保健を担う中心的な機関として世界保健機関(WHO)は公衆衛生上の緊急事態に対する事前、事後を含めた国際的な対応の調整、および現場での直接支援ができる立場にある。しかし、WHOの資金は十分ではなく、その力も政治的圧力や組織としてのやっかいな構造と官僚主義によって損なわれている。その弱点は今回のエボラの流行でもはっきりしていた(注83)。同様にエボラの流行は、国の公衆衛生に対する管理能力と構造面での強みと弱みをはっきり示すものでもあった。米連邦政府の保健機関および州や市の保健部門は資金削減に苦しみ、官僚的、組織的欠陥から、国内的にも世界規模でも公衆衛生上の緊急事態に対する統制の取れた対応は妨げられた(注84)。また、慈善事業やその他の非政府組織は国際保健分野における重要な補完的役割を果たしているとはいえ、政府主導の公衆衛生対策にとってかわることはできない。召喚を伴う検疫のような手段をとる使命も法的な権限も付与されていないからだ。



コメント
「2001年のエボラの流行で強く思い知らされたのは、流行を抑えるためにはコミュニティの関心がどこにあるかを知り、コミュにニティと協力して活動しなければならないのに、私たちにはそうした能力がないということだった。文化や迷信、不信感といったことに踏み込んで対話を続ける言葉も手立てもなかった。しかも、アウトブレークの情報がアフリカからジュネーブを経てアムステルダムに伝わるのに4カ月もかかっていたという事実は、国の保健システムも、国際的な対応メカニズムも、いかに壊れていたかということを示すものだった。12年が経過しても、そうしたアウトブレークに対応する各国および国際間の能力はあまり変わっていなかったのだ」
 (カルナカラ.U, イェール大学ジャクソン地球課題研究所上級フェロー; コロンビア大学メイルマン公衆衛生学部臨床准教授; マニパル大学カスターラ医学校客員補助教授(2015). Historical, Sociological, and Legal Perspectives on U.S. Policies Intended to Prevent Ebola in the United States. Presentation to the Bioethics Commission, February 5. Retrieved February 18, 2015 from
http://bioethics.gov/node/4593.



勧告2
 米国は国内および国際的な公衆衛生上の緊急事態に対応するために以下のような能力の強化をはかるべきである。(1)増大する資金の確保や保健分野の国際・国内・非政府機関との協力を通じ、世界的な保健危機に対応する世界保健機関(WHO)の能力強化をはかる (2)すべての国内および国際的な公衆衛生上の緊急事態に責任をもって対応する連邦政府の保健担当官を任命し、権限を与える (3)命令系統を円滑にすること、緊急時の対応に必要な技術の取得と維持のための資金を確保することなどを通じ、米公衆衛生局の展開能力を強化する。

      *

 公衆衛生上の緊急事態のもとで、手に入れられる限り最善のエビデンスを踏まえ、なおかつ倫理原則に則った対策を遂行できるかどうかは、社会に向けたコミュニケーションの成否にかかっている。公衆衛生コミュニケーションは、社会政策の透明性と説得力を増し、人々を教育し、恐怖や不安を和らげ、偏見を防ぐことができる。メッセージを効果的に伝える方法に関しては、リスクコミュニケーションやクライシスコミュニケーションについて幅広く理解することで、さまざまなエビデンスが得られている。たとえば公衆衛生専門家の間ではすでに以前から認識されているように、コミュニケーションというものは一方通行ではあり得ないし、「社会」や「コミュニティ」を均質なものとしてとらえることもできない(注85)。積極的に関わっている人たちをコミュニケーションのパートナーとして尊重すること、コミュニティの中で信頼されている人と良好な関係を保っていくことの重要性は繰り返し指摘されてきた(注86)。また、公衆衛生の専門機関や科学者は、科学的な根拠に基づいて一貫性のあるメッセージを提供するためにメディアと協力していくべきである。その際(社会不安を解消するために確信をもってメッセージを伝えていきたいと考える傾向はあるにしても)、不確実なことや新たなエビデンスが示される可能性があることは率直に指摘しておく必要がある(注87)。コメンテーターの中には、公衆衛生上のリスクを語るときには、事実と行動規範が密接に絡み合うものであると指摘する人もいる。公衆衛生上のリスクを効果的に伝えるには、人の健康や安全に対する被害の大きさや確率、重大性などを、心理的にも、社会的にも十分、理解できるようにしておく必要がある(注88)。さらに研究を重ねていく必要があるが、リスクコミュニケーション戦略の策定には多分野にまたがる努力が重要なことをこれらの特長は示している(注89)。

 コミュニケーションは、公衆衛生政策に対するコミュニティの受容と理解に深く関わっていることから、公衆衛生コミュニケーションも、付け足しではなく、政策策定の重要な一分野として位置づけなければならない(注90)。それに加えて、公衆衛生はいくつかの点で、個人の健康を維持するのとは異なる手法を採用する必要がある。政策決定にはそうした違いも反映させる必要があり、社会の信頼と理解を得ようとするのなら、政策決定者は教育にも力を入れなければならない(注91)。また、公衆衛生のメッセージは、歴史的にも記録され、現在も観察できるように、災害や流行は大きな影響を受ける人たちに対する偏見を生み出す傾向もあるので、そうした動きに備え、対処できるようにしておく役割を担うこともコミュニケーションには求められている(注92)。


勧告3
 政府担当者は、教育とコミュニケーションにより、公衆衛生対策の必要性を伝える責任がある。コミュニケーションの努力は相互に関係する以下の3つの目的 を果たすために進めるべきである。 (1)個人およびコミュニティが自らの健康を守るための正確で役に立つ情報を明確に誰もが得られるかたちで広く提供する (2)公衆衛生対策に直接の影響を受ける人たちに対し、それぞれの価値観とその背景要因を尊重しながら情報を提供する (3)公衆衛生の緊急事態に現れがちな差別や偏見を低減する。

      *

 流行は前例のない、まったく新しいかたちで人々に影響を与え、その影響が国としての姿を反映することもある。生命倫理委員会は事前の対策策定に加え、公衆衛生上の緊急事態が発生したときには、倫理面からの考察を対策にリアルタイムで組み込んでいくことを想定している。公衆衛生の専門家および機関が即応的かつ包括的なアプローチで倫理面から政策と取り組むためには追加的な資金が必要である。


コメント
 「対策の有効性は流行が起きなければ試すことができないので、流行発生以前に適切な枠組みを用意しておく必要がある。そのためには、研究デザインの倫理性、同意プロセス、試験的治療薬の使用、規制手続きの迅速化、国際機関や各国政府による素早い勧告など幅広い課題を検討しなければならない。すべてのプロセスにおいて、透明性を高め、データに広くアクセスできるようにする必要がある」
オリアロ.Pほか (2015年2月2日)。 Ethical issues with the conduct of treatment trials for Ebola virus disease in endemic settings. Comments submitted to the Bioethics Commission, p. 4.



 諮問機関、および倫理協議担当官の任命は、これまでの倫理の統合に関する素晴らしい成功事例であろう。だが、倫理に関してはすでに確立されている公衆衛生基盤の外側に存在する何者かであるというような考え方はすべきではない。そうではなく、最善の公衆衛生政策は、すべてのレベルにおいて厳格な倫理基準に導かれ、実施されるべきものである。公衆衛生上の緊急事態への対応の中に倫理を組み込んでいくことは、緊急事態の初期段階において問題解決の道筋を探り、対応していく機能を果たすはずだ。倫理を組み込むことで、公衆衛生の専門知識が求められているときに、政策決定に対する新たな正当性を付与することにもなる。

 すべてのレベルで公衆衛生を高める迅速な倫理協議は、緊急対応計画の策定時および対応時に備えた倫理原則を組み込んでおくべきである。また、倫理的な観点からの事後評価も必要だ。こうした努力は公衆衛生に関する倫理基準を明確に示し、公衆衛生の専門家や機関に対してその基準に沿って政策を実行するよう促していかなければならない。また、政府担当者が公衆衛生を守るという義務を果たしているかどうかについて、社会が説明責任を求める際にもそうした基準があることが助けになる。


勧告4
 流行の急速な拡大といった緊急時における公衆衛生分野の意思決定には、倫理原則をタイムリーかつ機敏に反映させる必要がある。公衆衛生に関する質の高い 倫理的知見を生かし、リアルタイムで入手可能なエビデンスに基づいて、緊急事態に伴う倫理課題を把握するとともに、その対応について判断できるようにして おかなければならない。公衆衛生上の緊急事態に対する準備と実践に倫理を反映させる方法の一環として、すべての国内および国際的な公衆衛生上の緊急対応を 統括する政府保健担当官は、その任務の不可欠な側面として倫理課題にも責任を持つべきである。



Analysis and Recommendations
This global public health emergency―and our societal response to the perceived threat and reality of limited cases of Ebola arriving on our shores―has forced us as a society to revisit fundamental questions about when health crises in other countries become our shared moral concern, and has illuminated shortcomings in our public health and ethics preparedness infrastructure.80 Because the United States has both ethical and prudential reasons to engage in promoting global health and to participate in global responses to public health emergencies now and in the future, ensuring that public health preparedness includes a strong component of ethics preparedness is imperative. Strengthening local and regional public health infrastructure to address ongoing public health problems can serve to mitigate conditions that make public health emergencies more likely and, when they do occur, less likely to have devastating long-term health and societal implications.81 Public health preparedness that focuses on broad capacity building will enhance the ability and flexibility of governments and institutions to respond to health emergencies because many important features of any particular health emergency will be unknown before it occurs.

Recommendation 1
In an interconnected world, for ethical reasons and to protect national interests, the U.S. government has a responsibility to engage in preparedness and to participate in coordinated global responses to public health emergencies.


Strong international and U.S. federal public health infrastructures are essential for responding effectively to public health emergencies and their short- and long-term consequences.82 As a key international public health organization, the World Health Organization (WHO) is well-positioned to provide both strong global coordination and direct on-the-ground support before, during, and after public health emergencies. However, WHO is underfunded and its effectiveness hampered by politicization and an unwieldy organizational structure and bureaucracy―vulnerabilities the current Ebola epidemic has underscored.83 Similarly, the Ebola epidemic has highlighted strengths and weaknesses in U.S. federal public health governance and infrastructure. U.S. federal public health agencies and state and local health departments also have faced declining funding, as well as their own bureaucratic and organizational challenges to coordinated public health emergency response, both domestically and globally.84 In addition, although philanthropic and other nongovernmental organizations play important complementary roles in global health, they cannot replace government-led public health efforts because they generally lack both its broad mandate as well as the legal authority to impose measures such as quarantine when warranted.


“What struck me during [the Ebola outbreak of 2001] was our absolute inability to communicate key concerns and to work with the community to control outbreaks. We lacked the vocabulary and the tools to negotiate culture, superstition, and distrust. Moreover, the fact that it took four months for the information about the outbreak to travel from [Africa] to Geneva and then to Amsterdam indicates how broken the national health system, and indeed the international response mechanism, was. Twelve years later, not much has changed in the national and international capacities required to respond to such an outbreak.”
Karunakara, U., Senior Fellow, Jackson Institute for Global Affairs, Yale University; Assistant Clinical Professor, Mailman School of Public Health, Columbia University; Adjunct Visiting Professor, Kasturba Medical College, Manipal University. (2015). Historical, Sociological, and Legal Perspectives on U.S. Policies Intended to Prevent Ebola in the United States. Presentation to the Bioethics Commission, February 5. Retrieved February 18, 2015 from
http://bioethics.gov/node/4593.



Recommendation 2
The United States should strengthen key elements of its domestic and global health emergency response capabilities. These include (1) strengthening the capacity of the World Health Organization to respond to global health emergencies through provision of increased funding and collaboration with other international, national, and nongovernmental public health organizations; (2) identifying and empowering a single U.S. health official accountable for all federal public health emergency response activities, including both domestic and international; and (3) strengthening the deployment capabilities of the U.S. Public Health Service, including by streamlining command structure for deployment and by providing appropriate resources to train and maintain skills needed for emergency response.

    *

During public health emergencies, the success of policies grounded in the best available evidence and sound ethical principles hinge on how these policies are communicated to the public. Public health communication can increase transparency and accountability in public policy, educate the public, reduce fear and mistrust, and counter stigmatization during public health emergencies. An extensive and vital literature addressing risk and crisis communications provides a large body of evidence about how to convey messages effectively. For example, as has been long recognized among public health communications specialists, communication cannot be unidirectional, nor should “the public” or “the community” be considered a homogenous entity.85 The importance of engaging stakeholders as active and respected partners in communication, as well as building on ongoing relationships with trusted community members, has been repeatedly demonstrated.86 In addition, public health institutions and scientists should work with the media as much as necessary to deliver consistent and scientifically grounded messages, which should include being frank about uncertainty and the possibility of new evidence coming to light (despite the natural inclination to express confidence when reassuring anxious members of the public).87 Some commentators have noted that risk discourse in public health involves inextricably intertwined facts and norms. Effectively communicating public health risks must involve psychologically and socially mediated understandings of the magnitude, likelihood, and importance of hazards to human health or safety.88 These features demonstrate that interdisciplinary efforts can make distinctive contributions to identifying successful risk communication strategies, though more research is needed.89
 


Because communication efforts can be deeply connected to community acceptance and uptake of public health policies, public health communication forms an integral part of public health responsiveness―not an additional step taken after such responses are identified and implemented.90 In addition, public health differs in key ways from individual health. Policy decisions must reflect these differences, and policy makers must educate the public about them if they are to foster public trust and uptake.91 Moreover, public health messages can play an important role in anticipating and countering the historically documented and ongoing tendency to stigmatize those most affected by or associated with a disease or an epidemic.92



Recommendation 3
Public officials have a responsibility to support public education and communication regarding the nature and justification of public health responses. Communication efforts should serve the following three interrelated purposes: (1) provide the public with useful, clear, accessible, and accurate information about the response, including what is known about what communities and individuals can do to protect their health; (2) provide those most directly affected by public health policies and programs with an appreciation of the values ref lected in, and reasoning behind, their implementation; and (3) mitigate stigmatization and discrimination associated with many public health emergencies.

*

Epidemics can affect the public in unpredictable and novel ways and can reflect who we are as a nation. The Bioethics Commission envisions a future in which, when public health emergencies arise, they will be addressed with realtime integration of ethical considerations in addition to early planning. Public health professionals and institutions require responsive and comprehensive approaches that provide additional resources for grappling with the ethical dimensions of public health policy and practice.



“Since the effectiveness of interventions can only be tested during an epidemic, an appropriate framework should be set in place before epidemics occur. This framework should consider a broad range of issues including the ethics of study design, consent processes, use of experimental therapies, fast-track regulatory opinions and processes, and swift progression towards recommendations by international and national authorities. Transparency and open access to data should underpin the whole process.”
Olliaro, P., et al. (2015, February 2). Ethical issues with the conduct of treatment trials for Ebola virus disease in endemic settings. Comments submitted to the Bioethics Commission, p. 4.



Advisory bodies and ethics consultation services offer excellent examples of previous efforts at ethics integration; however, ethic s should not be thought of as something that exists outside the established public health infrastructure. Rather, the best public health policies are guided by and embody rigorous ethical standards at all levels. Integrating ethics throughout public health emergency response can serve a problem-solving function by anticipating, identifying, and addressing ethical concerns in the early stages of emergencies. Ethics integration also provides additional resources for justifying policy decisions at a time when public health expertise is at a premium.

For agile ethics integration to redound on all levels of public health, emergency planning and response must include thorough integration of ethical principles. Ethical expertise should be included in post-response effectiveness evaluations as well. Such efforts should explicitly articulate ethically based standards for public health and facilitate public health institutions and professionals in enacting policies in line with these benchmarks. Such standards also enable the public to hold political officials accountable to their duty to safeguard the public’s health.


Recommendation 4
Ethical principles should be integrated into timely and agile public health decision making processes employed in response to rapidly unfolding epidemics. Qualified public health ethics expertise should be readily available to identify ethical considerations relevant to public health emergencies and responses in light of real-time available evidence. As one part of ethics integration into preparation for and implementation of public health emergency response, a single U.S. health official accountable for all federal domestic and international public health emergency response activities should also be accountable for ethics integration as an essential facet of public health emergency response.


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