資金メカニズム検証2 マベル・ファン・オランニェ

 課題3 包括的プログラムの開発

 もう一つの課題は政策のギャップです。資金提供者の側が設定する優先順位は現実の必要性よりも、イデオロギーによって決められていることが余りにも多いのです。

 PEPFARを例にとってみましょう。この資金は一定の割合をアブスティネンス・オンリー(純潔教育のみ)のプログラムに配分していることが特長です。ここで問題なのは単に「アブスティネンス」の「A」が、「ビーイング・フェイスフル(相手は一人)」の「B」や「コンドーム」の「C」と比べて効果があるかどうかということではありません。各国の専門家が現場の現実に基づいてプログラムを作るべきなのかどうかということです。アフリカでは新たに感染しているのは多くが一夫一婦制のもとで結婚している女性です。彼女たちはすでに「フェイスフル」であり、「アブスティネンス」は選択肢ですらありません。アフリカの新たな感染の半数以上が若者です。南アフリカでは女性の3人に1人が自らの意思に基づかずに最初の性行為を体験しています。このような状態で、「アブスティネンス」を強調しても彼女たちを守ることなどできません。

 資金提供者はしばしば、短期の計測が容易な結果を出すことを迫られます。

 抗レトロウイルス薬(ARV)を多数の人に提供するために与えられた資金を使うことは簡単です。予防やヘルスケアシステムへの投資に対し、計測可能な見返りを示すことはもっと複雑です。ARV治療に集中したいという誘惑は当然あるでしょう。誤解しないでほしいのですが、治療は不可欠です。しかし、それは予防、ケアも含めた広いアプローチの中に位置づけられていなければなりません。

 結核とHIVは切り離すことができません。結核は最もよくある日和見感染症で、HIV感染者・エイズ患者の死因の第1位を占めています。重複感染者には、結核の治療が病状を改善し、生命を延ばすための最も効果的な方法であることはいいニュースだといえます。包括プログラムでは結核とHIVのプログラムを結合させる必要があります。

 さらに微妙な問題に入りましょう。エイズとの闘いにおいて、すべてを包括するプログラムを重視するなら、資金提供者も、資金を受ける国の政府も、この病気の世界的流行の中で最も意見が対立しがちな問題にきちんと取り組む意欲を持つ必要があります。薬物注射使用者やセックスワーカー、受刑者、亡命希望者、難民ら市民権を奪われ、社会の周縁に置かれている人たちのためのプログラムに対し支援を拡大することは避けられません。

 たとえば、薬物注射使用者は中国、ロシアを含むユーラシア地域でHIV感染の拡大の大きな要因になっています。アフリカを除けば、世界でHIVに感染している人の3人に1人が薬物注射使用者です。ユーラシア地域でのエイズの拡大を止めるには、資金提供者が注射針交換やメタドン治療などのハームリダクション(被害軽減)プログラムを協力に支援しなければなりません。こうした対策が最も効果的にHIVの新たな感染を防ぐ手段であることは実証されています。薬物使用者に他の人と同様、抗レトロウイルス治療を受けられるようにすることも大切です。こうしたことは感染を防ぐためのプラグマティズムであると同時に、倫理の問題でもあります。治療へのアクセスは基本的な人権です。他の患者と同じように、薬物使用者に対しても、治療は効果があります。また、治療は予防を助けることにもなります。

 資金提供者および資金を受ける国は、資金を効果的に配分することが可能になるよう、政治、法律面での構造的な障壁にも対処しなければなりません。南アフリカにおける経験からも分かるように、政治、法律面での変化を生み出すには、非常に大きな圧力が必要になります。国連の麻薬に関する協定を例に取りましょう。この協定は、各国政府が小さな違反によって薬物使用者を投獄するための口実に使われることがしばしばあります。その結果、刑務所は薬物使用を抑えることができないまま、HIV感染を広げる場所として有名になってしまい、政策変更の必要に迫られています。実は国連の麻薬に関する協定のもとでも、ハームリダクションは認められています。各国政府はこのことを政策に反映させるべきです。

 最後に各国が効果的な対策を採用することを妨げている人材難と頭脳流出の問題を取り上げなければなりません。エチオピア本国よりも米国内の方がエチオピア人の医師はたくさんいます。毎年、エチオピアで医学教育を受けて医師になる人の数よりも、エチオピアを去っていく医師の数の方が多いのです。ガーナ国内で働くよりも英国の保健サービス機関で働いているガーナ人の看護師の方がたくさんいます。私たちの能力上の問題点を解消するために、彼らが抱える問題をさらに大きくしているのです。エイズは緊急の対応を必要としていますが、その対応は途上国の保健分野に対する人的、物理的な投資がなされなければ完全なものにはなりません。

 要約すれば、求められているのは、ばら売りではなく、卸売りです。エイズはより広い開発の文脈の中でとらえていく必要があります。

 世界エイズ・結核・マラリア対策基金

 OSIでは、いままで私が言及した課題に対応しうる可能性が世界基金にはあると考えています。

 援助を進めていくうえで世界基金にはいくつかの特徴があり、それがこの基金をユニークなものにしています。プロジェクトは政府部門、非政府部門の両方の関係者が加わった手続きにより、資金提供を受ける国自身が作り、実行していくべきものとしてとらえられています。基金は民間を含む幅広い資金提供者から追加的な資金と技術支援を引き出しています。説明責任を果たせる透明な方法で方針決定と運営にあたることを試みています。進め方は参加型であり、国別調整メカニズムCCMから理事会レベルまで資金提供者にも資金を受ける側にも、政府部門と非政府部門が含まれています。そして、小さな組織であることを保ちつつ、柔軟で反応の早い基金であることを目指しています。

 こうしたことはほとんどの援助機関にとって当然のこととされ考えられてきたのかもしれませんが、現実にはそうではありません。

 運営面では批判や失敗もあります。助成の契約や支払いが遅い(速めようとしてはいますが)。でも、世銀のMAPの経験でも、新たな資金メカニズムの初動が遅いことは異常であるとは言えません。多数の国の市民社会グループがCCMから排除されていると文句を言っているし、透明性には程遠いという指摘もあります。資金の主要な受け手が政府機関で、そこからNGOに流れていくかたちのときにも問題が生じることがあります。

 こうした問題には正面から取り組む必要があります。事務局は手続きの再検討と修正には積極的に取り組むことを明らかにしていますが、それだけでは十分とはいえません。世界基金の現実とあるべき姿との間に乖離が生じた場合には、その乖離をなくすように努める使命を負っている理事会でも取り上げる必要があります。理事会にはさらに、世界基金の活動に対する参加型構造と事務局の日常業務遂行に必要な権限との間のバランスにも配慮しなければなりません。

 全体的として、初期の結果は立派なものでした。これまでのところ世界基金は130カ国に対し、2年間で30億ドルの助成を約束しています。この図は最初の5年間に提供される1-4ラウンドの予想される結果を示しています。

 ただし、基金はいま重要な曲がり角に来ています。

 2005年には少なくとも35億ドルが必要でしょう。このうち拠出の約束を得ているのはまだ、8億8000万ドルに過ぎません。フランスのジャック・シラク大統領やその他の要人が基金が必要とする額の負担は以下のような基準でなされるべきだと主張しています。三分の一は米国、三分の一はEU、残る三分の一はその他の国および民間からの寄付。現在はヨーロッパが世界基金の5割強を提供しています。米国は引き続き三分の一を負担するという約束を守るべきです。そして残る世界も応分な負担が必要です。

 世界基金を創設し、動かしている資金提供国は、米国も含め、財政面から基金を見ていかなければなりません。

 結論

 資金を受ける国や関係者がそれぞれの役割を果たせるようにしつつ、エイズとの闘いに勝つために、国際支援の提供者が取り組むべき課題を3つあげることで結論にしましょう。

 第一に資金提供者は資金の大幅な増額が必要です。
 第二に資金提供者は資金を受ける国自身の計画の枠組みを支えることで、協力と調整をもっと進める必要があります。
 最後に資金提供者は包括的プログラムを開発していくべきです。そこには難民、薬物使用者、受刑者、セックスワーカーといった社会から排除されがちな人口層に対する治療、およびそのために必要な政策の変化も含まれます。

 資金提供者が、エイズ資金をより効果的に生かすにはどうしたらいいのかを見てきました。冒頭で私はまた、資金提供者はどこにカードを置くのが最も効果的であるかとお尋ねしました。

 さまざまな新しい資金メカニズムに対し判断を下すのは、時期尚早かもしれません。しかし、初期の評価とOSIの直接の経験にもとづいて、私なら世界基金に託します。

 世界基金は単なる資金メカニズムではなく、援助に関するルールを書き換える動きでもあります。

 緊急時の心構え、資金を受ける側が自分で作ったプログラム、参加型の手続きなど、他のメカニズムの持ついいところを集めています。そして重要なのは、運営の過程で遭遇する問題に積極的に対応していこうとする姿勢です。

 世界基金が機能し、活躍できるようにするための約束と政治的な決意を示して私たちがバンコクを後にできるようになれば、この会議は成功です。

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