『幹細胞移植を受けたHIV陽性の患者2人、抗レトロウイルス治療中断後もHIVのリバウンド起きず』


(解説) 骨髄移植を受けた後、しばらくしてから抗レトロウイルス治療を中断した米・ボストンの男性2人が、中断後かなりの時間を経過しても血液中のHIV量が検出限界以下に保たれているというニュースが話題になっています。クアラルンプールで開かれていた第7回国際エイズ学会病態・治療・予防会議(IAS2013)の最終日(7月3日)に会場で記者会見が行われ、それが世界に(ということは日本にも)伝えられたからですね。白血病治療のため骨髄移植を受けたベルリンのHIV陽性者の体内からHIVがいなくなり治癒に至ったと考えられている症例がすでに1件あるので、そのベルリンペーシェントに続く完治第2、第3例かというかたちの注目のされ方でしたが、IASの公式サイトで世界のHIV関連のニュースを集めて紹介している(IAS AIDS News Worldwide)の記事を見ると、研究チーム自身が《まだ治癒したと結論づけることはできない》とことわったうえで説明しています。また、ベルリンペーシェントとは重要な点でいくつか異なっていることも説明しています。さらに《費用が極めて高額であるうえ、死亡のリスクも15%~20%と考えられ、非常にリスクが高い。また、適用可能な対象は幹細胞移植が有効ながんの重症症例に限られている》として、《ボストンの患者が今後、数カ月、ないしは数年にわたってHIV感染が認められない状態が続いたとしても、このタイプの幹細胞移植を他の多くのHIV陽性者にも適用できるということにはならない》とクギを刺してもいます。
 その紹介記事の日本語仮訳です。stem-cell transplantsは幹細胞移植と訳しましたが、報道で伝えられるように骨髄移植と同じと考えていいのでしょうか。ベルリンペーシェントとの比較の部分も専門的な用語が多発していて、訳者には理解できていないところもあります。その前提でお読みください。誤りや考え違いがあれば、該当分野のご専門の方からご指摘をいただきたいと思います。よろしくお願いします。
 IAS2013の記者会見の動画のURLも紹介しておきましょう。
 http://www.youtube.com/watch?v=1tFA9-Ri-V4




幹細胞移植を受けたHIV陽性の患者2人、抗レトロウイルス治療中断後もHIVのリバウンド起きず
Author: Marc Mascolini 2013年7月5日( IAS AIDS News Worldwideから)
http://www.iasociety.org/Default.aspx?pageId=5&elementId=15306

リンパ腫治療に幹細胞移植を受けたボストンの男性2人が、それぞれ移植後に抗レトロウイルス治療(ART)を中止して7週間、および15週間を経過しても体内のHIVのウイルス量が元に戻っていなかった。

2人の治療にあたる医師、研究者は、まだ治癒したと結論づけることはできないとしているが、この事例をめぐる議論は第7回国際エイズ学会病態・治療・予防会議(IAS2013)の最終日に注目を集めた。

今回の症例は、幹細胞移植によってHIV感染が完治したとされるベルリンペーシェントと比較された。しかし、ボストンの男性2人はいくつかの重要な点でベルリンの患者とは異なっている。

ボストンの患者はリンパ腫と診断されたときにはすでに、複数の治療薬を組み合わせた抗レトロウイルス治療を受けていた。2人とも、CCR5のデルタ32変異のないドナーからの幹細胞を受け、同種造血幹細胞移植の骨髄非破壊的前処置(RIC-alloHCST)を行っていた。CCR5デルタ32変異は、主としてT細胞をHIV感染から保護する機能を持つものである。

2人の男性は幹細胞移植中および移植後それぞれ2年間と5年間にわたりARTを続けていた。ART継続中、血清や末梢血単核球 (PBMCs)にHIVは検出されなかった。その後、医師たちは患者に対し、観察を続けながらARTを中断することを提案し、2人の患者は同意した。

ART中断から7週間後、および15週間後の時点で、PBMCsにHIVは再び現れておらず、ウイルスのコカルチャーでも、生成されたCD4細胞中にウイルス複製の徴候を示すHIVp24抗原は検出できなかった。男性1人の直腸細胞からはHIVのDNAは検出されなかった。どちらの男性にもHIVに特有な免疫反応は認められなかった。

ボストンの患者はリンパ腫であり、ベルリンの患者が白血病だった点でも異なっている。ベルリンペーシェントは幹細胞移植の前に骨髄全体を徹底的に除去しており、ボストンの男性2人が部分的な除去を行っただけだったのとは異なっている。ベルリンペーシェントはHIV感染を防ぐCCR5デルタ32変異を持つというまれなタイプのドナーからの幹細胞の移植を受けているが、ボストンの男性2人が移植されたのは野生型(変異していない)CCR5のドナーからの幹細胞だった。最後にボストンの男性2人は移植中と移植後数年間もARTを続けていたが、ベルリンペーシェントはそうではなかった。

研究者は、ボストンの患者の場合、ARTを継続したことが新しく作成された細胞をHIV感染から守り、同時に移植片対宿主病がまだ残っていた移植前からの細胞を殺すのを助けたと考えている。

ボストンの患者が今後、数カ月、ないしは数年にわたってHIV感染が認められない状態が続いたとしても、このタイプの幹細胞移植を他の多くのHIV陽性者にも適用できるということにはならない。費用が極めて高額であるうえ、死亡のリスクも15%~20%と考えられ、非常にリスクが高い。また、適用可能な対象は幹細胞移植が有効ながんの重症症例に限られている。



No Viral Rebound After ART Stops in Two Stem-Cell Transplant Patients
    Author: Marc Mascolini 05 July 2013

Viral load did not rebound 7 and 15 weeks after antiretroviral therapy (ART) stopped in two Boston men who had stem-cell transplants to treat lymphoma.

Clinician/researchers caring for the two men cautioned that the cases cannot be called cures yet, but discussion of the implications highlighted the final day of the 7th IAS Conference on HIV Pathogenesis, Treatment and Prevention.

The cases invite comparison with the Berlin patient, a man cured of HIV infection after a stem-cell transplant. But management of the two Boston men differed from that of the Berlin patient in several important ways.

The Boston men were already taking combination ART when they were diagnosed with lymphoma. Both underwent reduced-intensity conditioning allogeneic hematopoetic stem cell transplantation (RIC-alloHSCT) with stem cells from donors who did not have the CCR5 delta 32 mutation, which largely protects T cells from HIV infection.

The men continued ART during their stem-cell transplants and for 2 and 5 years after the transplants. During continued ART, HIV could not be detected in plasma or peripheral blood mononuclear cells (PBMCs). Then clinicians asked the men if they would interrupt their ART under close observation, and both agreed.

Seven and 15 weeks after ART stopped, HIV did not reappear in PBMCs, and viral coculture could not detect HIV p24 antigen, a signal of viral replication, in purified CD4 cells. HIV DNA could not be detected in rectal tissue of one man. Neither man had detectable HIV-specific immune responses.

The Boston patients differ from the Berlin patient in that they had lymphoma and he had leukemia. The Berlin patient underwent total bone marrow obliteration before his stem-cell transplant, while the Boston men underwent only partial obliteration. The Berlin patient had stem cells transplanted from a donor carrying the rare CCR5 delta 32 mutation, which protects cells from HIV infection, whereas the Boston men had stem cells transplanted from donors with wild-type (nonmutated) CCR5. Finally, the Boston patients continued ART during their procedure and for years afterwards, while the Berlin patient did not.

Researchers speculate that continued ART protected newly created cells from HIV in the Boston men while graft-versus-host disease helped kill lingering pretransplant cells still infected with HIV.

Even if the Boston patients continue to remain free of HIV over the next months and years, this type of stem-cell transplant cannot be deployed in most other HIV-positive people. The procedures involved are expensive and very risky, carrying a 15% to 20% risk of death, and are appropriate only for people gravely ill with a cancer that responds to stem-cell transplantation.

Sources:

T. Henrich, E. Hanhauser, M. Sirignano, et al. In depth investigation of peripheral and gut HIV-1 reservoirs, HIV-specific cellular immunity, and host microchimerism following allogeneic hematopoetic stem cell transplantation. 7th IAS Conference on HIV Pathogenesis, Treatment and Prevention, June 30-July 3, 2013, Kuala Lumpur. Abstract WELBA05.

Donald G. McNeil Jr. Post-transplant and off drugs, H.I.V. patients are apparently virus-free. New York Times. 3 July 2013.
For an IAS 2013 press conference on the Boston cases
http://www.youtube.com/watch?v=1tFA9-Ri-V4





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