AIDS2014 ジョナサン・マン記念講演 2

(解説)オーストラリアのマイケル・カービー元判事のジョナサンマン賞受賞記念講演の後半です。
 カービー判事はエイズ対策の6つの教訓をあげています。要約すると以下のようになります。前回も紹介しましたが、エイズパラドックスは「HIVに感染した人たちを処罰し、排除しても、HIV感染は減らず、逆にHIV陽性者を守ることがHIV感染の予防にも効果がある」といったところでしょうか。

 1 科学的な根拠に基づくものであること
 2 当事者の声を聞くこと
3 政治指導者にエイズパラドックスを辛抱強く説明すること
 4 エイズパラドックスは政党的立場を超えて実現出来ること
 5 感染症対策の伝統的手法を超えて考えること
 6 人々の生命を守るために法律や政策を変える勇気を持つこと 


(ジョナサンマン記念講演続き)

6つの大切な教訓
 1988年にストックホルムで国際エイズ会議が開かれた時、私は開会式ではなく、閉会式で話をしました。その発言を読み直し、主要なメッセージは簡潔であるということに気付きました。それはいま、メルボルンでも有効です。当時は真実だったし、いまも真実です。改めてその方向性を明確にしておく必要があります。変化はしても、誰も置き去りにしないようにするという方向性は変わりません。
 ・第一に科学的であることが重要です。HIVとエイズに対応するすべての法律も戦略も、神話や思い込みではなく科学に基づかなければなりません。科学が三剤併用療法の奇跡をもたらし、新たな治療を切り開いてきました。科学が苦痛を救ったのです。大きな成果です。いまや1500万人近いHIV陽性者がその恩恵を受けています。
 ・第二に当事者の声を聞く必要があります。ジョナサン・マンが語っていたように、私たちの闘いの最前線にいるのはHIV陽性者(PLWHA)です。彼らが現実を教え、行動を求めています。
 ・第三に政治の指導者がエイズのパラドックスを理解できるよう手助けをする必要があります。これはジョナサン・マンが教えてくれたパラドックスです。直感にはほとんど反するでしょうが、現状において、HIVに感染した人たちを処罰し、排除することで人々が検査を受け、エイズによる死亡や苦痛を減らしていくようにはなりません。現実にはHIV陽性者を守ることで、それが実現するのです。思いやりと支援を求められるようにすることで実現するのです。法律と政策は、エイズの流行に対する解決策の一部であり、決して問題の一部であってはならないのです。
 ・第四にHIVパラドックスは、立場の異なる政治家のどちらにも説明できるし、受け入れてもらえます。エイズにまつわる知恵と思いやりに政党的立場はありません。たくさんの人が貢献できるのです。30年前、大混乱だった当時のオーストラリアがそうでした。労働党政権の保健相、ニール・ブルウェット博士とカウンターパートのピーター・バウム博士が協力してエイズパラドックスに取り組みました。彼らはゲイ男性、セックスワーカー、注射薬物使用者といった人たちを守ろうとしました。オーストラリアでは、歴代のホーク、キーティング、ハワード、ラッド、ジラード、アボット各内閣を通して、一貫した方針をとってきました。私たちが誇りとするところであります。戦略として不完全なところも失敗も時にはありました。それでも、私たちは世界に対し、基本的なエイズ政策のモデルとして示すことができます。
 ・第五に私たちは感染症の流行に対する数多くの伝統的手法に抵抗してきました。エイズの流行の初期から、隔離や因習的な法執行が機能しないことは明らかでした。完治療法やワクチンといった医学的な「魔法の銃弾」も期待に反して見つかっていません。巧みに身をかわし続けています。それでも、抗レトロウイルス薬とその普及により、予防としての治療が1500万人の人権を守ることになりました。おそらく、誰も置き去りにされることはなくなるでしょう。
 ・第六に、多くの国で指導者たちは悲劇的なまでにエイズパラドックスを受け入れられませんでした。彼らは語ってきました。抗レトロウイルス薬の援助を受けてきました。しかし、彼らはみじめなまでに人権を守ることにも、自国民の生命を守ることにも失敗してきました。対応が遅すぎたのです。以下のような改革が必要でした。
 ・法律と知的財産権の改革ができなければ、死ななくてもいい人たちが死んでいくでしょう。簡単なことです。行動しようとしない人に告げて下さい。いま、この世界で生命が奪われているのです。他国の納税者に資金負担を期待することはできません。自国民を守るために、自分の国の法律と政策を変えることを拒み続けていれば、抗レトロウイルス薬のために莫大な資金が必要になります。1940年のミッキー・マウスのファンタジアは、私たちがいまいる世界の状態を描き出しています。多くの国で、水は勢いよくあふれ出しています。洪水をほうきで掃き出すことはできません。蛇口を閉めなければなりません。オーストラリアで長く適用されてきたような法律と政策がなければ、それはできません。


オーストラリアモデルの持続を
 この国だから簡単にできたのだなどと思わないで下さい。厳しい道でした。それでも、20年間しっかり守ってきました。

 これほど長期にわたって私たちのエイズ対策モデルが継続できたのはどうしてでしょうか。エイズアクティビストたちは、政治の指導者と緊密に協力し、そして敬意をもって説得を続けてきました。思いやりの心と人権、洪水があふれた場合の経済の厳しい現実とを訴え、オーストラリアのトニー・アボット首相と政府はエイズアクティビストと会合を持ちました。協力できる場を探していったのです。この対話は他の国も必ず教訓にできるでしょう。私たちは彼らから学ぶことができます。しかし、彼らも私たちから学ぶことができるのです。

 ・2003年から07年まで保健大臣だったときに、アボット氏はエイズに関する合意をしっかりと守り続けてきました。
 ・注射薬物使用者のHIV感染を実質的になくすという大きな成功を収めた注射針交換プログラムの廃止提案が議会に出されたとき、彼は断固として拒否しました。
 ・首相として、彼の政府は2020年までに国内のHIV感染がなくなることを目指す第7次オーストラリア国家エイズ戦略を支持しました。保健相のピーター・ダットン下院議員は2014年7月7日、この大胆な戦略を政府に約束し、広く受け入れられました。
 ・HIVに感染した人が早期に治療を受けられるようにする自発的検査モデルの普及をはかるために在宅検査を認める条件を整えました。治療が予防になるのです。
 ・前政権の決定を覆し、アボット政権は世界基金に対するオーストラリアの資金誓約を維持しました。拠出約束はゼロから2億ドルに引き上げられたのです。
 ・彼は現在の「薬物戦争」戦略が成功しないことを初めて認めたオーストラリアの首相であり、新たな政策を求めています。
 ・外相のジュリー・ビショップ下院議員はオーストラリアの地域援助モデルを断固として守っています。政府はウイルスが船舶よりも簡単にこの国に入ってくることを知っています。近隣の諸国がそれぞれの国内の流行を縮小に転じることができれば、それは相手国だけでなく、自国の利益にもなることを認識しているのです。
 ・彼はこの重要な会議に私たちと共に出席し、この悲しみの時を共にしました。
 ・信念の政治家として、そして明確な保守として、トニー・アボットは、ブリスベーンで開かれるG20サミットや英連邦会議の席で世界の政治指導者に対し、不作為や悪しき行動による行き詰まり状態を打ち破ろうとしている私たちの考えを伝えてくれるかもしれません。蛇口を開いたままにしている多くの政治家は、嫌なことばかり言う人間の言葉よりも、彼の言葉の方を喜んで聞くはずです。保守政治家は、ご覧のように、エイズとの闘いにおける重要な同志なのです。何百万という人たちの生命を助けることになったPEPFAR(米大統領エイズ救済緊急計画)を作ったのも、世界基金の活動を推進してきたのも、米国のジョージ・W・ブッシュ大統領だったことを私たちは決して忘れるべきではありません(ところで、ブッシュ大統領は北朝鮮の人権問題に対しては非常におとなしかったのですが、これはまた別の話ですね)。

誓いを新たに
 もう一度、ジョナサン・マンのことを思い出し、この闘いを進めていきましょう。私たちは自分自身に対し、そして失われた友人たちに対し、誓いを新たにし、効果のある戦略を進めていくためにこの会議に集まりました。富める者も貧しい者も。男も女も。HIV陽性者も彼らを愛し、支える人も。宗教を信じる人も信じない人も。ストレートもゲイも。リベラルも保守も。この点では一緒です。

 HIV陽性者に、エイズで亡くなった人に、そして、私たちの宣言に盛り込まれた考え方を進めていく闘いの中で亡くなった人たちに、メルボルン会議は誓いを新たにしなければなりません。パラドックスを追求していかなければなりません。残酷な力や無関心にゆがめられることなく。そして、誰か一人でも取り残されるおそれがあるうちは決して満足することなく。




SIX VITAL LESSONS
In 1988, I spoke not at the opening, but at the closing session of the Stockholm AIDS Conference. Re-reading my remarks has taught the essential simplicities of the key messages that must guide us still, here in Melbourne. They were true then. They are still true today. We must re-discover clarity their and direction. By repeating the change in the directions essential if no one is to be left behind:

• First, there is the vital importance of science. All laws and strategies to deal with HIV and AIDS must be based on science, not mythology and prejudice. Science has brought us the miracle of triple combination therapy and new lines of treatment. Science has relieved suffering. It has made a big difference. And nearly 15 million people with HIV are now the beneficiaries;
• Secondly, we must listen to the voices. As Jonathan Mann taught us, people living with HIV and AIDS (PLWHA) must be at the very forefront of our efforts. They will bring us realism. They will demand action;
• Thirdly, we must help political leaders to understand the AIDS paradox, taught by Jonathan Mann. Paradoxically, and almost counter-intuitively, the best way in current circumstances to get people to testing and to reduce the toll of death and suffering is not by punishing and isolating those infected with HIV. It is actually by protecting them. By entering their minds. By getting them to seek help. Law and policy must be made part of the solution not part of the problem of AIDS
• Fourthly, the HIV paradox can be explained and accepted by politicians, including on both sides of the political divide. No side in politics has a monopoly on wisdom or compassion on AIDS. Many have contributions to make. We saw this in Australia in the early frantic days, thirty years ago. Dr Neal Blewett, Labor Federal Health Minister and his Coalition counterpart, Dr Peter Baume, came together to embrace the AIDS paradox. They reached out in protection of gay men, sex workers, injecting drug users and others. In Australia, throughout the Hawke, Keating, Howard, Rudd, Gillard and Abbott Governments, we have retained this steady course. It is something we can be proud of. It is a strategy, with occasional imperfections and failings. But we can put it before the world as a basic model for effective AIDS policies;
• Fifthly, we have resisted many traditional approaches to epidemics. From the earliest days, it was clear that quarantine, law’s conventional response, would not work. The early promises of a medical “silver bullet” - a cure or a vaccine - did not eventuate. They continue to elude us. Yet the ARVs and then the dramatic outreach to provide therapy as prevention to 15 million people made human rights a reality. Perhaps after all, no-one would be left behind;

• Sixthly, in many countries leaders have tragically failed to embrace the paradoxes of AIDS. They have talked. They have received the subventions for antiretroviral drugs. But they have failed dismally to defend the human rights and lives of their own citizens it is beyond time for the adoption of initiatives by these leaders that work. Without such reforms and without
• changing the global laws on intellectual property, people will die needlessly. It is as simple as that. Someone must tell those who will not act, the practical facts of life in our world. They cannot expect taxpayers in other countries to shell out, indefinitely, huge funds for antiretroviral drugs if they simply refuse to reform their own laws and policies to help their own citizens. Mickey Mouse in Fantasia in 1940 portrayed the global state we are now in. Too many countries are leaving the tap running full pelt. To sweep up the flood with a solitary broom is not going to work. We must turn off the taps. And that will not happen without an embrace of the kind of laws and policies we have long adopted in Australia.

SUSTAINING THE AUSTRALIAN MODEL
Do not think for a moment that it was easy for us to do as we have done in this country. It was hard. But it has held firm over 20 years.
So how have we maintained our model on the AIDS response for so long? AIDS activists have done so by working closely and respectfully with political leaders of every persuasion. By appealing to human empathy, to human rights and to the cold realities of economics and the costs of leaving the taps running. Australia’s Prime Minister, Tony Abbott, and his government, have met AIDS activists. They have worked with them in search of common ground. This dialogue surely has lessons for other countries. We can learn from them. But I believe they can learn from us:
• When he was Health Minister in 2003 to 2007 Mr Abbott steadfastly maintained adherence to the established consensus policies on AIDS;
• When some parliamentary colleagues proposed an end to the highly successful needle exchange scheme that has virtually eliminated HIV amongst injecting drug users, he sided with the angels and refused to change;
• As Prime Minister, his government has endorsed the VIIth Australian National HIV Strategy, targeted to eliminate HIV transmission in this country by 2020. His Health Minister, Peter Dutton MP, on 7 July 2014, committed the government to this bold strategy. It has been widely welcomed;
• He has cleared the decks for changes to allow home testing to step up rapidly the voluntary testing model which will get HIV positive people quickly onto therapy. Treatment will bring prevention;
• Reversing the predecessor government’s decision, the Abbott Government has restored Australia’s practical commitment to the Global Fund. It has promised $200 million in the place of a zero subvention that reversed past commitments;
• He is the first Prime Minister of Australia ever to acknowledge that the current ‘war on drugs’ strategy can never be won – much as he is disinclined to surrender and seek new policies;
• His Foreign Minister, Julie Bishop MP, is a stalwart defender of Australia’s regional overseas aid model. The Government knows that viruses can enter this country far more easily than boats. They realise that it is in our interests, as much as those of others, to help our neighbours to reverse the pandemic in their own lands;
• He has come to be with us at this important conference and he has shown solidarity with us at this sad time; and;
• As a conviction politician and an unabashed conservative, Tony Abbott may be able to help us in this world to reach out to those political leaders, at the coming G20 Summit in Brisbane and in the meetings of the Commonwealth of Nations, to break the deadly logjam of inaction or wrong actions. Many of those who have left the taps of infection still open are more likely to listen to him than to others that talk a language that they abhor. Conservatives, you see, can be vital allies in the struggle against AIDS. We should never forget that it was President George W. Bush in the United States who established the PEPFAR Fund and promoted the Global Fund that has helped save millions of vulnerable lives. (And by the way, President Bush was also very sound on North Korea’s human rights record. But that is another story.)


RENEWING OUR COMMITMENT
And so, once again we remember Jonathan Mann and meet together in this struggle. We come to renew our commitment to ourselves, to our lost friends, and to the strategies that work: Rich and poor. Men and women. People living with HIV and those who love and support them. Religious and non-religious. Straight and gay. Liberals and conservatives. We are in this together.

To those who live with HIV, to those who have died of AIDS and to those who have died in the struggle to advance the principles of our Declaration, this Melbourne Conference should give a renewed commitment: To continue down the paradoxical path that has been shown to work. Never to allow the forces of cruelty and ignorance to us. And never to be content whilst anyone is at risk of being left behind.
ENDS

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