予防効果は限定的 タイのHIVワクチン臨床試験結果


(解説)タイで行われたワクチン臨床試験に対する評価がニューイングランド医学雑誌(NEJM)に掲載されました。それを紹介した国際エイズ学会(IAS)のサイトのレポートのそのまた紹介という孫引きというか、まごまご引きというか・・・。日本国内の専門家からもアドバイスを受け、どんな評価だったのかを、まごまごしながら私なりにまとめて見ました。(宮田一雄)

なお、IASの英文記事 《FULL RESULTS OF THAI HIV VACCINE TRIAL INDICATE LIMITED PROTECTION》 は以下のサイトでご覧になれます。
http://www.iasociety.org/Article.aspx?elementId=12221


◎ タイのHIVワクチン臨床試験の結果によると、予防効果は限定的

 タイで行われたHIVワクチンの臨床試験の結果について、10月20日付のニューイングランド医学雑誌(NEJM)に評価レポートが掲載されている。
 《Vaccination with ALVAC and AIDSVAX to Prevent HIV-1 Infection in Thailand》
 http://content.nejm.org/cgi/content/full/NEJMoa0908492?query=TOC

 残念ながらこの論文は専門的すぎて、読み進むだけでも私の手には余る。歯が立ちません。幸いなことに国際エイズ学会(IAS)のウエブサイトに要約記事が載っていたので、それを日本語に訳し、部分的に引用しながら内容を紹介していこう。IASの記事によると、今回の臨床試験の全体的な評価は以下の通りである。

《最もよくても、HIVに対しては、ほどほどの予防効果にとどまることが示されている。2つのワクチンの組み合わせ群とプラシーボ群を比較した3つの分析のうち、2つには統計的に有意な差は認められないとしている一方、残る1つの分析はかろうじて統計的に有意であるとしている》

HATプロジェクトのブログでは9月27日付で、この臨床試験の結果に関するWHOとUNAIDSの声明(これまでで最大のHIVワクチン臨床試験の結果は非常に期待が持てる)を日本語に訳して掲載した。速報段階で30%強の感染予防効果があると伝えられ、声明にはかなり大きな期待感が表明されていたように思う。
http://asajp.at.webry.info/200909/article_3.html

ただし、詳しく検討してみると、あまり劇的な進歩とは言えない。それでも、これまでの他の臨床試験よりは希望が持てるのではないか。そんな結論に落ち着いたようだ。NEJMのエディトリアルでも、ハーバード大学医学部のラファエル・ドリーン博士は「さらなる研究への扉を開く成果」と一定の評価をしている。予防ワクチンの実現化に向けて、道はなお険しいが、それなりに光りは見えてきたといったところだろうか。

 IASの記事によると、タイの臨床試験は、AIDSVAX(糖蛋白質120[gp120]B/Bワクチン)とALVAC-HIV(カナリーポックス・ベクター・ワクチン、vCP1452)という2つのワクチン候補を組み合わせて行われた。

このうち、AIDSVAXは、単独では過去2回、臨床試験に失敗している。また、ALVAC-HIVの方も、HIVワクチン臨床試験ネットワークから、効果が弱く、さらに試験を行うメリットはないとの判定を受けている。つまり、両方とも単独ではあきらめられかけていたワクチン候補だった。それが組み合わせて使ってみると、まったくダメというわけでもないようだぞ。そんな感じだったのだろうか。予防効果はほどほどであっても、心理的なサプライズ効果も手伝って注目度が高まったといった側面もありそうだ。

 IASの記事にはさらに《ドリーン博士はタイの臨床試験結果について、臨床試験に参加したのがおおむねローリスク層の人だったことが、効果が十分でなかった理由ではないかと示唆している》とも書いている。

《臨床試験の参加者は18~30歳の健康な男女1万6402人で、ほとんどが異性間の性行為がHIV感染のリスクと考えられる。臨床試験の担当者によると、47.5%がHIV感染に関しては低リスク、28.4%が中程度のリスクと判定している。以前のgp120ワクチンの臨床試験では、参加者のほとんどは男性とセックスをする男性、または注射薬物使用者の男性で、高リスク層だった》

 1万6402人の参加者はボランティアで、プラシーボ群とワクチン投与群にほぼ2等分されている。ワクチン投与群には《最初にALVACワクチンを4回、その後でさらにgp120ワクチンを2回》という方式でワクチン接種が行われたという。《ALVACワクチンは細胞性免疫の刺激、gp120は感染防御のための抗体の刺激》が目的だ。参加者は6カ月間にわたる一連のワクチン接種が終わった段階でHIV検査を受け、さらに3年間にわたって6カ月ごとに検査を受けていった。

 結果については《フォローアップの最後で、研究者らはワクチン群とプラシーボ群の感染防止率(95%の信頼区間)について以下のような計算をしている。3つの分析のうち2つは、P<0.05の伝統的な統計的有意差を満たしていない》ということである。統計の信頼区間とか有意差とかいった話になってくると、急に腰が引けてきます。ギブアップ。ただし、分からないのは私だけかもしれないので、箇条書きになっている結果部分は日本語に訳したものをそのまま載せておこう。

― 1万6402人全員を対象にしたIntention-to-treat分析*:26.4%の防御率(95%の信頼区間で4.0から47.9%、P=0.08)

― 臨床試験開始前にHIVに感染していた7人を除外した修正後のIntention-to-treat分析:31.2%の防御率(95%の信頼区間で1.1から51.2%、P=0.04)

― 臨床試験プロトコールに従っていることが明らかな1万2452人を対象にしたプロトコールごとの分析:26.2%の防御率(95%の信頼区間で13.3から51.9%、P=0.16)

《ワクチンを受けたのに感染した人の初期のウイルス量やCD4の値に関し、ワクチンの影響はなかった。細胞性免疫を効果的に刺激するワクチンならこれらの値に影響が出るであろう》といった記述もある。ワクチンの研究をされている方のお話では、これは「暗に細胞性免疫の刺激には有効でない」ということを示しているという。



参考:《FULL RESULTS OF THAI HIV VACCINE TRIAL INDICATE LIMITED PROTECTION》

Complete results of the Thai prime-boost HIV vaccine trial, published in the New England Journal of Medicine, indicate—at best—modest protection against HIV. Two of three analyses comparing the double vaccine with placebo fell short of statistical significance, while the third analysis barely attained statistical significance.

Still, in an editorial on the trial, Raphael Dolin of Harvard Medical School calls the findings “an opening for further research.”

Even the modest protective effect of the double vaccine comes as a surprise because one component of the vaccine (a glycoprotein 120 [gp120] B/B vaccine, AIDSVAX) failed in two previous trials, while the other component (a canarypox vector vaccine, ALVAC-HIV, vCP1452) was judged by the HIV Vaccine Trials Network to be too weak to merit further testing.

Dolin suggests the marginal benefit in the Thai trial may reflect the large, mostly low-risk population. The trial included 16,402 healthy men and women between the ages of 18 and 30, most of them with a heterosexual risk of HIV infection. The investigators rated 47.5% as having a low risk of HIV infection and 28.4% as having a moderate risk. In earlier trials of the gp120 vaccine, most enrollees were high-risk men who have sex with men or injection drug users.

In this double-blind, placebo-controlled trial, volunteers received placebo or four priming injections with the ALVAC vaccine plus two booster shots with the gp120 vaccine. The ALVAC vaccine aims to stimulate cell-mediated immunity, while the gp120 vaccine tries to stimulate antibody-mediated protection from infection. Study participants were tested for HIV at the end of the 6-month vaccination series and then every 6 months for 3 years.

At the end of follow-up, the investigators calculated the following protection rates with the vaccines versus placebo (and 95% confidence intervals). Two of the three analyses fell short of the traditional statistical significance threshold of P < 0.05):

—Intention-to-treat analysis with all 16,402 study participants: 26.4% protection (95% CI -4.0 to 47.9, P = 0.08)

—Modified intention-to-treat analysis excluding 7 people who had HIV infection before the trial began: 31.2% protection (95% CI 1.1 to 51.2, P = 0.04).

—Per-protocol analysis including 12,452 people who followed the trial protocol precisely: 26.2% protection (95% CI -13.3 to 51.9, P = 0.16)

In people who became infected despite receiving the vaccine, vaccination did not affect their early viral load or CD4 count. A vaccine that effectively stimulates cell-mediated immunity would be expected to do so.

The investigators suggest that “although the results show only a modest benefit, they offer insight for future research.”


Sources:

Supachai Rerks-Ngarm, Punnee Pitisuttithum, Sorachai Nitayaphan, Jaranit Kaewkungwal, Joseph Chiu, Robert Paris, Nakorn Premsri, Chawetsan Namwat, Mark de Souza, Elizabeth Adams, Michael Benenson, Sanjay Gurunathan, Jim Tartaglia, John G. McNeil, Donald P. Francis, Donald Stablein, Deborah L. Birx, Supamit Chunsuttiwat, Chirasak Khamboonruang, Prasert Thongcharoen, Merlin L. Robb, Nelson L. Michael, Prayura Kunasol, Jerome H. Kim, for the MOPH–TAVEG Investigators. Vaccination with ALVAC and AIDSVAX to prevent HIV-1 infection in Thailand. New England Journal of Medicine. Published online October 20, 2009.


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