HIV/AIDS 予防、ケア、治療のユニバーサル・アクセスに関するWHO事務局報告

(解説)世界保健機関(WHO)の第117回理事会2006年1月23日から28日まで、ジュネーブで開かれています。この報告は、HIV/エイズの予防、ケア、治療のユニバーサル・アクセスに関する資料として理事会に提出されたものです。WHO理事会は原則として年2回、毎年1月と5月の世界保健総会の直後に開催されています。ユニバーサル・アクセスは抗レトロウイルス治療の普及のため、「3バイ5」計画を引き継ぐかたちで打ち出された方針です。


世界保健機関 第117回理事会 議題案 4.5
英文は http://www.who.int/gb/ebwha/pdf_files/EB117/B117_6-en.pdf

HIV/AIDS 予防、ケア、治療のユニバーサル・アクセスに関する事務局報告

1.HIV/エイズは依然、世界の最も深刻な公衆衛生上の脅威である。20年以上前に流行が始まって以来、6000万人がHIVに感染し、2000万人以上が死亡している。2005年には年間で500万人が新たにHIVに感染し、300万人以上が死亡していると推定されており、事態は年々、悪化している。

2.国連総会がHIV/エイズに関するコミットメント宣言を採択してから4年の間に世界の対策は着実に強化されており、HIV/エイズとの闘いに使用できる資金はいまや相当な額に達している。途上国に対し、HIV/エイズおよび他の病気と闘うための追加的資金を提供する目的で世界基金が設立された。世界銀行は多国間HIV/エイズ・プログラムを通じ、巨額の補助金を提供している。また、先進諸国はそれぞれ、WHO加盟国や国連機関に対する二国間援助資金を大きく増額させた。コミュニティ組織や宗教関連団体、フィランソロフィー団体、国際的な非政府組織(NGO)、学術機関、企業などさまざまな組織が、アドボカシーや教育、研究、政策策定、サービス提供などの活動を通じ、予防と治療の拡大に取り組んでいる。

3.WHOとUNAIDSは2003年12月、低・中所得国のHIV陽性者300万人に対し2005年末までに抗レトロウイルス治療へのアクセスを確保する「3バイ5」計画を発進させた。2004年の第57回世界保健総会は、決議WHA57.14で「3バイ5」戦略を歓迎し、加盟国に対しては特に、各国の保健戦略全体の中でHIV/エイズの予防、治療、ケア、支援サービスを効果的に提供できる能力を確保するために必要な政策を幅広く検討し、一連の手段をとることを求めた。

4.加盟国の多くが「3バイ5」の目標を達成するよう取り組んできた。アクセス拡大のペースは、サハラ以南のアフリカ(HIV/エイズの流行に最も大きな影響を受けている地域)で最も期待の持てるものとなっている。この地域では2005年6月段階で50万人が治療を受けているが、これは18カ月前の3倍である。アジア、東欧・中央アジアの進展も目覚しい。2005年6月段階では、12カ月前と比べアジアで3倍、東欧・中央アジアでは2倍に増えている。ラテンアメリカ・カリブ諸国では治療を必要とする人の3分の2がいまや治療を受けられるようになった。世界全体で見ると、2004年6月から2005年6月の間に治療を受けられる人の数が倍増した国は50カ国以上になり、総数は44万人から100万人に増えている。 

5.治療のアクセス拡大に対し、各国は関与の度を大きく増している。「3バイ5」が発進したときには、エイズの流行に最も大きな影響を受けている49カ国のうち、抗レトロウイルス治療へのアクセスを拡大するための包括的な計画を作成している国は3カ国しかなかった。2005年6月までに、少なくとも34カ国が国の治療計画を作っている。「3バイ5」に焦点を当てて国の治療目標を掲げている国は、2003年末の4カ国から、少なくとも40カ国に増えている。そして少なくとも14カ国では、「3バイ5」の目標である必要な人の半分以上が治療を受けられるようになっている。多くの国が「3バイ5」計画に焦点を当てることによって治療へのアクセスの拡大を促進させることができたと報告している。

6.この目標は世界全体からみても治療へのアクセス拡大の推進役となっており、ミレニアム開発目標を実現するための世界規模の息の長い努力に向けた重要な一歩と認識されている。2005年7月にはG8諸国の指導者たちが共同宣言の中で、WHO、UNAIDSなど国際機関と協力し、2010年までに必要なすべての人に対して「ユニバーサル・アクセスの実現に可能な限り近づくことを目指し、HIV予防、治療、ケアのパッケージを策定し、実行する」との意向を明らかにした。2005年9月には第60回国連総会のハイレベル会合に出席した各国元首、首相らが2010年までに可能な限りユニバーサル・アクセスの実現に迫ることを約束した。

7.こうした進展のもとで、ユニバーサル・アクセスの達成に向けた保健対策のパッケージを実施していけるよう、必要な国に必要な指導と技術支援を提供するための協議が始まった。この協議によってまとめられる枠組みは理事会に提出されることになる。

8.この報告書は、2010年までにHIV/エイズの予防、ケア、治療へのユニバーサル・アクセスの実現に可能な限り近づくために、WHOとUNAIDSが提案するプロセスの概要を説明するものである。報告書はまた、各国がHIV/エイズ・プログラムを拡大する中で学んだ教訓についても検証した。

プロセス

9.ユニバーサル・アクセスの概念は、2006年から2010年までの間に予防、治療、ケア、支援の包括的なHIV/エイズ対策を継続的に拡大してくための重要な手引である。とりわけ、この目標を受け入れることは、人材不足や保健体制の不備といった障害を乗り越えるための大きなステップとなる。また、ユニバーサル・アクセスの実現に向けて取り組むことは、長期的な観点から持続可能かつ公正、良質なHIV/エイズ対策を実現し、より広範な保健開発目標の達成に貢献するための明確な戦略にもなる。

10.HIV/エイズに関する多国間機関や国際ドナーの間の調整機能を改善するグローバル・タスク・チームは2005年3月初め、途上国に対するより良い支援の実現を検討する目的で創設された。2005年6月に出されたタスク・チームの最終報告書は、国連に対し、基金を活用して各国を支援するための方法を以下のように提言している。:各国がエイズ行動計画に高い政策の優先順位を置くよう国のエイズ対策調整機関の協力をより緊密にする;各国レベルでエイズ対策国連合同チームを設置する;各国レベルで対策の妨げとなる要因を克服するため、国連システムの各機関と世界エイズ・結核・マラリア対策基金のメンバーからなる課題解決チームを創出する;UNAIDSの共同スポンサーと世界基金の分担を明確にする;技術支援に対する資金確保を拡大するためにUNAIDSプログラム推進基金の充実強化をはかる(1)。

11.2005年6月以来、WHOは資金メカニズムの拡大と役割分担、技術支援などの計画に深く関与し、新たに作られた課題解決・実行支援グローバル合同チームのまとめ役となってきた。

12.予防、治療、ケア、支援サービスに関する各国のターゲットを2010年までに達成するうえでの阻害要因や推進の機会を把握し、目標達成に向けたロードマップを描き、それに対応した国レベルの迅速で参加型のプロセスを設けることが提案されている。そのプロセスは計画策定や優先順位の決定における各国の自発的判断を尊重し、外部からの支援も(グローバル・タスク・チームによって提言されているように)その優先順位に応じたものになる。

13.国が主導するプロセスは、三つの統一原則、モントレー合意(2002年にメキシコのモントレーで開かれた国際開発資金会議の結果)、効率的な援助に関するパリ宣言で示されている調和と連携の考え方に基づき、各国がいま取り組んでいるエイズ対策計画および開発計画を促進するものであることが期待されている。したがって、野心的でありながら現実的でもある2010年までのアクセス拡大目標の設定とその目標達成のための枠組みは、現行の国の開発計画(たとえば貧困削減戦略)およびHIV/エイズ対策を踏まえて策定すべきであり、それをさらに検証し、アップデートしていくことが必要である。各国レベルの活動で重要なのは各省庁、企業、宗教関連団体、市民社会、HIV陽性者のネットワーク、二国間、多国間援助パートナーなど幅広い利害関係者の参加であろう。可能ならば、現在あるナショナル・パートナーシップを活用し、国のエイズ計画を検証していくのが理想である。国連エイズ特別総会のコミットメント宣言実施状況に関する報告のための各国の継続的なデータ収集と分析もまた、目標設定とユニバーサル・アクセスの実現に向けた計画策定のための有益な情報を提供することになる。

14.このプロセスの成否は、どのように地域的なグループ分けを行い、メンバー国が抱えているユニバーサル・アクセスに対する共通の障壁をどう認識するかにかかっている。これらのグループには可能な限りエイズ対策の指導者たちを集める必要がある。

15.このプロセスを進めていくには、UNAIDSによってコーディネートされた多分野のパートナーからなる世界規模の運営委員会が必要である。2006年9月に開かれる国連総会の特別会合で、グローバルな観点から解決策を探り、各国の活動を評価し、世界規模の行動計画を作るために委員会が担うべき役割が検討される。この計画は、予防、治療、ケア、支援サービスの拡大に対するWHO加盟国の責任、および2010年までに可能な限りユニバーサル・アクセスの実現に迫るという目標を反映したものになるだろう。

教訓

16.「3バイ5」の目標を達成するための努力は、HIV/エイズ対策を継続的に拡大していくための価値ある教訓を提供してきた。抗レトロウイルス治療の拡大を効果的に進めていくには、各国の流行のパターンの違いやコミュニティ、地方における経済的な窮状、保健医療システムの違いなどの諸条件を考慮する必要がある。すべてのケースで成功の前提条件となるのは、政府予算の配分を含めた政治の高いレベルにおける持続的な関与である。利用可能な資金と能力を最大限に活用するには、標準化された簡潔な治療薬の処方箋と臨床モニタリングに基づく公衆衛生アプローチを採用しなければならない。また、これまでに成功を収めたプログラムは、既存の結核、リプロダクティブ・ヘルス、薬物依存などに対する保健サービスにHIV/エイズ治療を組み込む努力を続け、現在の保健インフラと能力を最大限に活用している。

17.保健関係の法律と政策を戦略的に検証することが、各国のプログラムの拡大を速め、その効果を高める助けになる。WHOとそのパートナーが開発した保健医療提供者に対するトレーニングのモデルは、いまや30カ国で採用されており、できるだけコミュニティに近い場所で治療を受けられるようにするとともに、日常のケアを看護師や訓練を受けたコミュニティ・ヘルスワーカーに委ねるための治療拠点の分散と拡大を促す効果をもたらしている;こうした方針の転換は人材配置の公平性を高め、利用可能な人材を最大限に活用することを可能にする。保健財政政策が、サービス提供の現場でHIV治療の患者負担を減らす結果をもたらすことは多くの国の経験で明らかである。この動きは治療に対する理解を高め、服薬継続率を改善することにも大きく貢献している。

18.プログラムを拡大したほとんどの国で、重大であり、大概は慢性的でもある保健医療システムの弱さが指摘されている。そうした弱点には、治療薬の管理、供給に必要とされるシステムと現在の検査施設の貧弱さや人材不足とのギャップも含まれている。経験とオペレーショナル・リサーチの両方がこうした課題を克服するための新たな方針や戦略、プログラム、アプローチの開発と実施を助け、HIV/エイズの予防、治療、ケアの拡大を医療システム全体の強化につなげることを可能にしている。

19.WHOは各国に対し、地方におけるパートナーとのコーディネートを助け、HIV/エイズの治療、ケア、予防に関する技術的課題に取り組むための人材支援を行なっている。

20.いまなお重大な問題を抱える国は多い。世界のHIV/エイズ対策資金は大幅に増えているが、それでも2005-2007年の3年間で推定180億ドルの資金ギャップがある。価格削減のための交渉能力を持たない国では、治療薬の第1次組み合わせ分の価格は依然、高すぎるし、第2次組み合わせ分の価格となると大半の国で手が出ないほど高価である。新たな子供向けの抗レトロウイルス薬の処方を含め、子供の治療に関しては特別の注意を払わなければならない。製薬に関する能力が限られていること、特定の製薬原料が希少であることに対する懸念が大きくなっている。若者、セックスワーカー、薬物注射使用者、男性とセックスをする男性、受刑者らバルナラブルなグループに対し、治療、予防、ケア、支援に対する公平なアクセスを確保しなければならない。HIVの母子感染予防プログラムの拡大にも一層の努力が必要である。保健分野全体で人材開発に対する投資の拡大が不可欠であり、その一方でコミュニティおよび民間医療サービス機関の関与を促すことによってエイズおよび他の病気と闘うための未開発の資金の活用をはかる必要がある。最後に、抗レトロウイルス作用を持つ新たな物質、簡素化された薬の処方、検査の改善、効果的なワクチン、マイクロビサイドなど、新薬および技術開発のための研究に対する継続的な投資は極めて重要である。

理事会の行動

21.理事会はこの報告書に留意することを求められている。


(1) Global Task Team on Improving AIDS Coordination among Multilateral Institutions and International Donors: final report. Geneva, UNAIDS, 2005.

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