第7回アジア・太平洋地域エイズ国際会議記念コンサートに寄せて

 2005年7月2日(土)夜、大阪サンケイホールで開催された「風の音色 第7回アジア・太平洋地域エイズ国際会議記念コンサート」の会場で配布したメッセージです。



「風の音色 第7回アジア・太平洋地域エイズ国際会議記念コンサート」に寄せて

       第7回アジア・太平洋地域エイズ国際会議文化プログラム委員長
                        宮田一雄(産経新聞論説委員)

 素晴らしい演奏の前でも後でもかまいません。エイズについて少し考える時間をとっていただければ幸いです。

 「エイズって昔、流行ってたよね」「よく知らないけど、もう治るんでしょ」
 そんな会話、聞いたことありませんか。
 確かにエイズは治療不可能な病気ではなくなりました。
 ただし、治療が可能になったといっても、それはエイズの原因になるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染した人の体の中から完全にウイルスがいなくなる状態を実現させる治療法ではありません。HIVが体の中にいても、体内の免疫の働きが破壊され、様々な病気にかかりやすい状態にならないよう、何とか持ちこたえている。そんな忍耐と努力が必要な治療を続けていかなければならないのです。
 また、世の中には新しいニュースが次々に登場するので、エイズがあまり話題にならなくなったからといって、HIVというウイルスも社会に遠慮して広がらないなどということはありません。
 ウイルスは感染の条件が成立すれば、世の中の関心や社会的地位や経済力にかかわりなく感染します。具体的には感染の防護措置を取らない性行為、薬物注射の回し打ちなどが感染のリスクの高い行為とされています。性行為は男女間でも男性同士でも感染が成立します。コンドームの使用はかなり大きくそのリスクを下げる有効な方法の一つとされています。性行為の相手を減らすことも感染のリスクを下げると考えられていますが、必ずしも決め手にはなりません。特定の1人としか性行為をしなかったのにHIVに感染したというケースも少なくないのです。

 日本国内のHIV感染は広がり続けています。厚生労働省エイズ動向委員会がまとめた昨年のHIV感染者・エイズ患者新規報告数は1165人で、初めて年間1000人の大台を超えました。今年4月には累積のHIV感染者・エイズ患者報告数が1万人を超えたことも明らかになりました。感染経路ではここ数年、男性同士の性行為による感染の報告が急カーブの上昇曲線を描いて増加を続けています。異性間の性感染は横ばいに近いゆるやかな上昇曲線ですが、報告されていないケース、つまり感染しているのに気付かずにいる人が増加していることもデータの分析からはうかがえます。
 実際にHIVに感染している人の数は報告の2倍から3倍ではないかと推定されています。そうすると、現在の国内のHIV陽性者数は2万人から3万人の間ということになります。感染はおおむね4年で倍増していると推定されており、このまま社会がエイズの流行に無関心でいれば、国内のHIV陽性者が10万人を超える日が訪れるのもそう遠いことではないでしょう。今年、小学校に入学した子供たちが思春期を迎え、人を好きになったり、恋をしたりする頃にはどうなっているのでしょうか。
エイズの流行は外国の話でも、過去の話でもなく、いままさに日本の国内で、社会の無関心を糧にして静かに進行している危機なのです。

国連合同エイズ計画(UNAIDS)の推計によると、昨年末現在の世界のHIV感染者数は3940万人に達しています。昨年1年間で新たに490万人がHIVに感染し、310万人がエイズで死亡しました。流行が最も深刻なアフリカでは2540万もの人がHIVに感染しています。
アフリカの深刻な事態は新聞でもしばしば報道されているので、ご存知の方も多いのではないかと思いますが、HIV感染の増加率でみると、世界で最も高いのはなんと中国や日本を含む東アジアであることはご存知でしたでしょうか。
これまでHIV感染の流行を免れていた地域と考えられていた東アジアでも、とうとう流行が本格化してきました。米国家情報会議(NIC)はエイズの流行を安全保障上の重大な危機としてとらえ、2002年にエイズ報告書をまとめました。報告書によると、中国では2010年にHIV陽性者が1000万人から1500万人に達するおそれがあります。2008年の北京五輪、2010年の上海万博と巨大イベントが相次いで予定されている中国は、いわば今後5年で東京オリンピックと大阪万博を一気にこなしてしまうような開発ブームの渦中にあります。そこでHIV陽性者が1000万人を超える事態が到来したら、どうなるのでしょうか。
日本のビジネスリーダーの皆さんにも、真剣に考えてもらいたい問題です。

昨日(7月1日)、神戸で第7回アジア・太平洋地域エイズ国際会議(神戸エイズ国際会議)が開幕しました。地球人口の六割を占めるアジアでHIV感染の拡大を防ぐことは、保健分野だけでなく世界経済の安定や国際安全保障の観点からも重要な課題となっています。また、国内におけるエイズ対策への関心を高めることは、明日の日本社会を支える前途有為な若者をはじめ、さまざまな立場の人たちをHIV感染から守るために急務とされています。
そのためにはエイズという困難な病気との闘いを日々に続けているHIV陽性者およびその家族が積極的にエイズ対策に参加できるような社会的環境を整えていく必要がある。会議の組織委員会はそう考えています。これは世界のエイズ対策の考え方の基本でもあります。本日のコンサートは、会議の開会式で名演奏を披露していただいた国立感染症研究所ウイルス第一部第五室長、岸本寿男さんの呼びかけに応え、さまざまなジャンルのミュージシャンが協力して実現しました。岸本さんはHIV感染とも密接に関係するクラミジア感染症の研究者であり、同時に米国で地域エミー賞を獲得するなど高い評価を得ている尺八演奏家でもあります。
世界の課題であるエイズ対策にいま取り組むことは、日本の明日を担う若い世代を守ることでもあります。HIVに感染している人たちを支援し、勇気づけることができれば、感染している人たちが発言する機会も増え、エイズ対策への社会の関心も高まっていくことになります。結局はそれが若者の予防対策にもつながることを、このコンサートを機会にご理解いただければ幸いです。

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