資金メカニズム検証1.  マベル・ファン・オランニェ

(解説)
 マベル妃は地雷除去運動などに取り組む人権活動家として知られ、オランダ女王の二男フリーゾ王子と結婚してオランダ王室の一員となった。このレポートは2004年7月12日、バンコクで開かれた第15回国際エイズ会議2日目のプレナリー・ミーティングでマベル妃がオープン・ソサエティー・インスティテュート(OSI)の研究員として行った。途上国の治療へのアクセスが急務とされる中で、HIV/エイズと闘うための資金をどのようにして確保するか、どのような資金メカニズムが望ましいかを検討している。


 資金メカニズム検証 2004年7月12日 第15回国際エイズ会議
  マベル・ファン・オランニェ
  オープン・ソサエティ・インスティテュート(OSI)

 「HIV/エイズと闘う資金を調達するための最善の方法は何か」というのは、私たちが今日直面している最も大きな課題の一つであり、この問題に関して私がオープン・ソサエティ・インスティテュートの名において話をする機会を得たことは大きな栄誉です。この病気は結核、マラリアとともに世界で何千万人もの生命を奪っています。このため、貧困から脱出して生活水準を上げたいと思っている人々の希望を押しつぶし、平和と安定さえも破壊しかねません。

 過去10年あまりにわたり、OSIとソロス財団ネットワークは国際レベル、国レベル、地方レベルでエイズ、結核、性感染症と取り組んできました。私たちはリトアニアの刑務所や南アフリカの貧民街からロシアの薬物使用のストリートチルドレンまで、エイズがもたらした荒廃を目の当たりにしてきました。豊かであろうと貧しかろうと、この殺人ウイルスに対し免疫がある社会はありません。

 それでもなお、皆さんもご存知の通り、この慢性的な危機は、それを止めうる最も大きな力を持つ人たちから無視されてきました。最近になってようやく、そうした状態が変化し始めているのです。

 国連エイズ計画(UNAIDS)の推計によると、低・中所得国のエイズ対策資金は1990年代半ばに5億ドルだったのが、2002年には17億ドルに増え、2003年にはさらに47億ドルに達しています。こうした資金の多くは国際的な援助によるものですが、当事国政府の支出およびHIV感染者とその家族による個人的な支出もかなりな額に上っています。このように資金の増加は目覚しいのですが、それでも十分とはいえません。

 ここではまず、資金の概略を簡単に説明し、次にエイズとの闘いで国際的な援助が直面する3つの主要課題について見ていきたいと思います。資金格差、協力と調整、政策格差の3つです。流行の影響が深刻な国による自らの支出も重要ですが、ここでは国際援助にしぼって話を進めていきます。

 エイズとの闘いに資金を投入することを真剣に考えるとしたら、あなたは何を選択しますか。どこにカードをおけば効果的でしょうか。二国間援助ですか? NGO支援ですか? 国連を通じてですか? 新しい資金メカニズムですか? それを見ていきましょう。

資金回路とメカニズムの概観

 米国は新たな計画を発表しています。大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)です。この計画は2国間援助のアプローチがお気に入りです。初年度の2004年には24億ドルを主に15カ国に配分しました。5年間で500万人が抗レトロウイルス治療を受けられるようにすることを目指しています。

 カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、イギリスも金額的には相当の増額をしています。また、国民一人当たりでは、アイルランド、オランダ、ノルウェー、スウェーデンの貢献も目覚しいものです。

 欧州の支援は多数の二国間の回路や多国間機関、NGOなどを通じてなされています。欧州の貢献は全体では米国を上回っているのに、その貢献が目立たず、政治的影響力が弱いのはこのためです。フランスとイタリアは主に世界基金(世界エイズ・結核・マラリア対策基金)に資金を投入することで、効果を高めようとしています。欧州委員会も多額の資金をこの基金に送っています。

 二国間援助と欧州委員会のほかに、世界銀行もエイズ・プログラムの重要な資金供給者となっています。予防、治療対策のための借款など伝統的な資金回路に加え、世銀は2000年に多国間エイズ・プログラム(MAP)構想を打ち出しました。資金および技術の支援を提供するこの新たなメカニズムは、需要にもとづいており、融通がきく仕組みであるとして評価されてきました。さらにMAPの支援のほぼ50%は各地の草の根の組織の小規模で効果の高い対策に投入されています。発足当初は目立ちませんでしたが、MAPはサハラ以南のアフリカとカリブ地域の28カ国2万5000件のプログラムに10億ドルの助成を承認しています。ただし、資金は現在、提供されている最中であり、成果の全体像を把握するのはまだ困難です。

 もう一つの新しい資金メカニズムは2002年に運営を開始したばかりの世界エイズ・結核・マラリア対策基金です。この基金は多額の新たな資金を動かしており、これら三大感染症の死の相互作用を認識している点でも、これまでに例のない基金です。後に詳しく分析することにします。

 国連機関の多くもエイズとの闘いに取り組んでいます。プロジェクトに資金を提供しているところもあれば、調整やアドボカシー(政策的な働きかけ)、モニタリングを中心にしているところもあります。

 政府資金に加え、民間の財団や企業の資金貢献も大きくなっています。この比較的、新しい動きは非常に重要です。世界基金の大きな貢献と予防プロジェクトの開発、治療薬、検査薬、マイクロビサイド、ワクチンなどの新しい技術の開発に関する貢献で、ゲイツ財団はそのいい見本といえます。米国外の財団にもさらなる貢献が望まれています。

 企業の中には従業員や家族を対象に治療プログラムを設けているところもあります。もっと多くの企業が取り組むべきでしょう。また、アフリカはもちろん、HIV感染の増加率がいま最も顕著で、予防対策が求められている旧ソ連・東欧、アジアでも既存のプログラムを拡大させる必要があります。

 こうした国際的な構想によって、何がもたらされるのでしょうか。現状はエイズの流行の拡大のペースに十分に対応できているとはいえません。エイズと結核の二重の世界的大流行と闘うつもりなら、資金提供者はさらに多くの資金が使えるようにしなければなりません。そして、協力を強化し、包括プログラムを生み出していくことで、効果を高めていく必要があります。

 以下の3点について、詳しく検証していきましょう。

 課題1 資金レベル

 資金のギャップについてUNAIDSは、2005年に年間120億ドル、2007年には200億ドルが途上国のHIV/エイズ対策に必要だとする試算を明らかにしています。2007年には現在の年間支出のほぼ4倍の資金が必要なことになります。

 現在の資金提供者は、さらに資金の増額を求められるでしょう。たとえば、ヨーロッパ各国の政府は第9次欧州開発基金をもっとエイズ目的に使うことを考えるべきです。さらに欧州連合の2007―2013年の財政見通しの中で、人間・社会開発に十分な資金を配分することを考える必要があります。

 世界規模の機関が各資金提供者に対し、いくら貢献すべきなのかということを言わなくても、それぞれの資金提供者は自らにふさわしい貢献額を示す必要があります。NGOコミュニティは、いわゆる「公正な貢献の枠組み」による金額を示し、政府はそれに真剣に対応しなければならないのです。

 もちろんエイズとの闘いの資金には、他の貧困削減対策やミレニアム開発目標の資金を回すことはできません。資金は追加的なものでなければなりません。

 私たちは生命を救うために資金を確保する必要があります。ザンビアで保健、介護従事者を育成し、中国の学生たちにHIV感染の危険性を教え、ロシアの薬物使用者に抗レトロウイルス治療を提供し、インドで十分な量のコンドームが使えるようにするための資金です。こうしたプログラムは緊急に、かつ同時に実施しなければならないのです。

 問題は資金を集めることだけではありません。その資金の使われ方も重要です。

 課題2 資金提供者間の協力と調整

 資金を受ける側が効果的にその資金を活用する必要がある一方で、国際的な資金提供者の側も、資金が効果的に使われるようにすることはできるし、使われるようにしなければなりません。最初に協力について取り上げましょう。

 拠出国政府がどれほどの額のエイズ資金を投入しており、将来はそれがどうなるのかを知ることは非常に困難であり、時には不可能でさえあることを、私はこのスピーチを準備する過程で思い知らされました。そうした情報が欠けていることが拠出国間の協力を阻害しています。二重投資に対する責任を負うものはいないし、極端に多額の投資を得ている国がある一方で、ほとんど何も支援を受けていない国あることに関しても責任をとるものはいません。

 情報をタイムリーに共有することも重要です。OSIの重要なパートナーである世界保健機関(WHO)は昨年、3バイ5構想を始動させました。これは実は資金メカニズムではありません。2005年までに抗レトロウイルス治療を300万人が受けられるようにしようという目標は素晴らしいものです。実現することを期待してやみません。WHOは技術支援を行い、その他の組織が治療のための資金を確保するかたちになります。こうした役割分担は資金提供者と資金を受ける側の政府との間で緊密な協議が行われなければ機能しません。

 資金提供者が実施を求める対策の優先順位や資金確保の回路は常にひとつではありません。しかし、資金を受ける国の計画や対策の枠組みに対する支援を可能にするには、援助の流れを調整する必要があります。NGOをはじめ、すべての関係者が計画策定と実施に加わる必要もあります。私たちはOSIの現場における経験から、エイズ対策が成功を収めている国では、コミュニティレベルの活動や国レベルの計画策定への関与、政府の消極姿勢を変えることなどで、市民社会が触媒としての役割を担ってきたことを知っています。偏見や差別、文化的な配慮に関する問題はあるにしても、エイズの流行を公共の課題としてとらえる市民社会の力は、政府や国際援助機関の活動を大きく補完することになります。

 プログラムづくりや報告、モニターなどで、資金提供者の手続きを効率化し、統一することは、国際的な支援を受ける国がその支援を有効に活用するための能力を高めることになるでしょう。UNAIDSははっきりと「ハーモナイゼーションの欠如が人を殺す」と指摘しています。資金提供者は資金を最も必要としているところに届けることができるようアクセスを可能な限り簡潔にする必要があります。このことは技術的には可能ですが、これまでのやり方を変えるための政治の意思が必要です。

 各国のエイズ対策を調整していく方法として、最近、採用されている原則、いわゆる「3つのワン」は、ちゃんと守られれば資金の有効活用を促すことになると私たちは考えています。

 協力と調整に関しては、国レベルのエイズ対策をより広い保健対策や教育、貧困削減戦略など、関連する開発課題ともうまく結び付けていくことが今後の課題になるでしょう。

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