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zoom RSS 力強い科学、果敢なアクティビズム  国際エイズ学会(IAS)年次書簡2017

<<   作成日時 : 2017/03/28 13:01   >>

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(解説) 国際エイズ学会(IAS)の公式サイトに2017年の年次書簡が掲載されました。その日本語仮訳です時期的に見て年頭にあたってのメッセージという感じでしょうか。世界の現状に対するかなり厳しい認識、およびその現状を克服するためのメッセージが示されています。


力強い科学、果敢なアクティビズム 国際エイズ学会(IAS)年次書簡2017
http://www.iasociety.org/Annual-Letter-2017

2017年を行動の年に

親愛なるIASメンバー、パートナーの皆さん
 2017年の年頭、私たちのコミュニティは心配と不安でいっぱいでした。政治的、社会的な変化は期待を裏切り続け、前途に何が待ち受けているのか、まったく予想ができなくなってしまうのではないか。人権について、難民や移民の窮状について、ジェンダーの平等について、そして人としてかわした約束の効力について、心配なことばかりです。
 そのどれもが私たちのHIVとの闘いに深く関わっています。HIV/エイズはまさに変化を糧に世界に広がる感染症であるからです。
 地球上のいくつかの地域がナショナリズムと外国人嫌悪へとシフトしつつあるという懸念の中で、私たちの世界的な闘いの将来はどうなるのでしょうか。同時代における最大のパンデミックと闘い、獲得してきた成果がするりと手の内から滑り落ちてしまうのでしょうか。
 いいえ、そんなことはありません。少なくとも、いまはまだ、そうなっていません。
 不安と懸念のまさにその中にあって、ようやく勝ち得た成果を守ろうとする動きが起きています。世界各地で何百万という人が1月のウーマンズマーチに加わりました。助けを必要とする人たちを危険視したり、孤立させたりするような新たな世界秩序に決然と反対し、無関心ではいられないという大きな意思を示したのです。
 私たちは歴史を観察したり、生き延びたりしているだけではありません。そうではなく、歴史をどう作るのか、その方法を知っていることも活動を通して明らかにしてきました。それが私たちの強みです。単なる歴史の旅行者ではなく、コンダクターでもあるのです。
 2016年が目覚ましい成果をあげた年だったことを忘れてはなりません。世界エイズ・結核・マラリア対策基金は、今年から3年間の資金が補充されました。エイズ終結に関する国連総会ハイレベル会合では、すべてのレベルでエイズと闘うことを世界が約束しました。第21回国際エイズ会議(AIDS2016)が南アフリカのダーバンで開催され、再びHIV/エイズ分野の歴史的な会議となりました。
 長時間作用型抗レトロウイルス薬開発、南部アフリカにおけるこの10年で初の大規模HIVワクチン臨床試験開始、HIV治療を受けている人が1800万人を突破、世界保健機関(WHO)勧告にも後押しされたHIV自己検査の普及拡大など、さまざまな分野で私たちは引き続き成果をあげています。
 ダーバンへの帰還は、2000年の治療アクセス運動の誕生から私たちがどれほど大きな成果をあげてきたのか再認識する機会となり、エイズコミュニティは再会と再生を果たしました。AIDS2016にはエイズ会議史上最多の若者が参加し、その若いリーダーたちによって科学とアクティビズムの団結は一段と強固なものになりました。
 しかし、ダーバンは注意喚起の機会でもあります。UNAIDSが発表した報告書は、国際的な予防対策の成果があがっていないことを警告しています(注1)。資金動向に関する別の報告書は、国際ドナーがエイズから離れつつあるという恐るべき事態を指摘しています(注2)。キーポピュレーションのニーズにどう対応するかをめぐり、国連ハイレベル会合で国際社会の議論が大きく揺れ動いてからわずか数週間後には、こうした問題が指摘されているのです。
 2016年が自己満足に対する警告の年だったとしたら、2017年はエイズコミュニティが自らの課題を受け止め、医学研究とコミュニティのリーダーシップがもたらした歴史的なチャンスをつかみ取るために、決意を新たにする年としなければなりません。
 また、今年は多分野と真に連帯すべき年でもあります。初の国連ハイレベル会合に向けて準備を進める結核コミュニティ;グローバル・ギャグ・ルール復活に反対して闘うセクシュアル・アンド・リプロダクティブ・ヘルスアンドライツ(性と生殖の健康と権利)コミュニティ;手頃な価格の治療薬へのアクセスを拡大し、予防可能な疾病による死亡を減らすべく闘っている肝炎コミュニティ;私たちが生きているうちにHIV、がんの治癒実現を目指す、がんコミュニティ、と連携していかなければなりません。最終的にわたしたちすべてが一つの国際保健コミュニティの一員として、人権と社会正義を実現し、健康を追求するために連帯していく必要があります。
 今年7月には第9回国際エイズ学会HIV基礎研究・治療・予防会議(IAS2017)が、パリで開催されます。HIV研究史上で最も重要なブレークスルーのいくつかが生まれた都市です。この会議こそが、内向きになる世界と闘い、トンネルの向こうに光が見えてきたこの瞬間に、何千万というHIV陽性者およびHIVに影響を受けている人びとへの信義を守る最も重要な機会となるでしょう。
 パリで皆さんにお会いできることを期待しています。

 IAS事務局長、オーウェン・ライアン


『3つの優先事項』
 エイズとの闘うための目標を達成するには、他の保健、人権擁護活動と協力してこれまで以上に努力を重ねつつ、新たな創造的方法を生み出していく必要があります。今まで通りのやり方を踏襲していたのでは、新規感染とエイズ関連の死亡を減らすという目標に対し、失敗のレシピを提供するだけで終わってしまうのです。
とりわけ、HIVとエイズへの闘いを持続していける資金が確実に保証されなければ、目標の達成は望めません。必要額と実際に使える金額とのギャップは年々、拡大していく中で、HIV関係者は以下の3つの重点分野で協力していくべきです。

・ HIV治療とケアへのアクセス拡大に引き続き取り組むと同時に、不可欠なHIV予防戦略の規模拡大を重視し、限られたエイズ資金による戦略的な成果を高めていく。
・ HIVとの闘いに必要な資金を生み出す努力を倍増させる。
・ 治療薬および他のHIV予防、ケア、治療に不可欠な手段のコストをさらに引き下げる。


『HIV予防を真剣に考える』
 限られた資金で成果を高めるには、効果が証明されている予防戦略にあてる財源を拡大しなければなりません。UNAIDSの報告書によると、HIV感染の一次予防に向けられている資金は現在、エイズ支出全体の20%にとどまっています。予防サービスに25%をあてるという世界目標には届いていません(注1)。ドナーおよび各国がHIV治療の拡大に力を入れる一方で、HIV予防対策が弱くなっているのです。
 HIV予防に対する優先度が低いことで、心配されていた通りの悲劇が生み出されています。2010年以降、成人の新規HIV感染は減少していないのです。また、若い女性(15〜24歳)の感染は、減少しており、それ自体は重要なことではあるのですが、減少率は6%と控えめな状態にとどまっています(注3)。UNAIDSの報告によると、南アフリカ、エジプト、ナイジェリア、ロシア、ウクライナなど人口の多い国々のいくつかでは、2010年から15年までの間に成人の新規HIV感染が増加しています。
 検査アクセスの拡大やコンドームと潤滑剤の普及、焦点をしぼったHIV教育への投資は、資金の有効な使い道であるだけでなく、倫理的な観点からも大切です。引き続き子どもの新規感染排除を目指すことにも同じことが言えます。どこに住んでいるかに関わりなく、HIV感染のリスクにさらされているすべての人が、感染を防ぐ手段にアクセスできるようにならなければなりません。しかし、多くの国でHIV感染の予防対策の政策的な優先度が低下していることから、予防サービスへのギャップはむしろ広がっています(注1)。
 感染に対する脆弱性が最も高い人たちに届けることができなければ、予防プログラムは成功しません。努力してはいるものの、最も感染しやすい人たちを対象にすることができず、そのニーズに対応することもできない場合がしばしばあります。対象を絞り、予防対策を集中させていくにはどうしたらいいのか。方法をめぐる知識そのものはこの数年、爆発的に広がっています。それでも、流行の現実にあわせ、教訓を実際の予防対策に生かしていくことはできずにいるのです。
 HIV予防のための資金をただちに増やし、プログラムを強化する一方で、HIVに感染しやすい人たちには、自らのリスクを認識しリスク低減をはかっているかどうかに関わりなく、二次予防を提供する。そうした戦略への投資も必要です。

挿入コメント

 「予防はHIV陰性の人たちだけでなく、HIV陽性の人にも必要です。個人レベルでHIV予防の重要性を認識してもらうには、理解のある患者の助けを借りなければなりません」
 ロイス・マツル、IASメンバー、ジンバブエでHIVに感染して生まれた24歳の女性

 長期持続型の曝露前予防投薬(PrEP)は、ユーザーに毎日の投薬を求めることなく成立する将来の予防戦略を約束するものです。しかし、多くの国で経口PrEPの普及さえ遅々として進まないという事実でも分かるように、この選択肢を必要とする人が利用しやすい環境を各国と医療提供者とコミュニティが積極的に準備をしていかない限り、長期持続型PrEPが確固とした公衆衛生上の成果を上げることはできません。セックスワーカー、男性とセックスをする男性、注射薬物使用者、トランスジェンダーの人たちといったキーポピュレーションにとって、PrEPが状況を大きく変える可能性はあります。ただし、それはPrEPの約束を実現させる効果的なプログラムが実施されれば、という条件付きです。機敏かつ持続可能な提供戦略が必要です。経口および注射によるPrEPを選択肢として示すことができれば、普及率は確実に上がっていくでしょう。
 自発的男性器包皮切除は男性のHIV感染を防ぐ包括的な予防パッケージの一部であり、HIV陽性の男性が減ることで間接的には女性への感染も防ぐことになります。ここでもまた、私たちの努力は十分ではありません。サハラ砂漠以南のアフリカの優先対策14カ国で、2015年に新たに男性器包皮切除の手術を受けた男性の数は前年より減っています。これは2007年に世界保健機関(WHO)が自発的男性器包皮切除をHIV予防の手段として推奨するようになってから初めてのことです。(注1)。
 HIV治療は二次予防のもう一つの有力手段です。しかし、HIV治療だけでは不十分なことも次第に明らかになってきました:過去5年間、治療の普及率は着実に上がっていったのに予防の成果はあがっていません。その典型的なケースがルワンダです:90-90-90ターゲット(注4)の達成に向けて着実に進んでいるように見えるのに、国内の年間新規HIV感染数は2011年から2015年までほとんど変わっていません。高い治療カバー率がありながら、HIVの感染が継続しているというこのパターンはオーストラリアでも同じです(注6)。HIV感染の二次予防の成果が出るのには時間がかかるでしょう。
 治療がもたらす予防への効果を十分に高めるには、アクセスを拡大し、治療カスケードのすべてにわたって改善を進めていかなければなりません。世界が年間新規HIV感染の減少軌道に戻るには、抗レトロウイルス薬(ARV)によるHIV感染リスクの低減とともに、一次的なHIV感染リスクを下げるための予防対策の強化が必要です。
HIVに感染しやすくなるような社会的もしくは構造的要因を減らしていく「社会的ワクチン」を機能させる戦略が必要です。最も弱い立場に置かれている人たちの生活を改善することでHIV感染のリスクを減らしていく戦略です。現金給付と教育へのアクセス拡大が10代の少女や若い女性のHIV感染リスクを下げることはすでにエビデンスとしてはっきり示されています。しかし、私たちが構造的介入策として理解していることと現実の世界で起きていることとの間には大きなギャップが口を開けています(注7)。HIV予防の構造的介入策の規模を拡大するには、エイズコミュニティが教育や社会保障、人権、司法など他分野の人たちと積極的に協力していく必要があります。


『いま資金を投入すれば将来負担は軽減』
 UNAIDSの推計によると、効果的なエイズ対策を実施するには2020年時点で少なくとも年間262億ドルが必要になります(注5)。2015年のHIV投資総額は190億ドルでした。エイズ資金は過去3年間、実質的に増えていない状態で、これまでの成果を持続できるかどうか、懸念されています(注1)。HIVの新規感染とエイズ関連の死亡をさらに減らしていくための必要額には遠く及びません。
 不可欠な資金を確保するための新たな財源の開拓が、私たちのコミュニティの大きな課題です。持続可能な開発目標(SDGs)に200項目近いターゲットが盛り込まれていることで分かるように、国際保健と開発にむけた優先課題は増え続けています。新たなエイズ資金を求め、そこに投資することが、いかに多くの開発課題の改善に役立つか。それを示せるような敏捷かつ着実なアドボカシーが必要なのです。
 エイズ対策を支えてきたのは、科学者、クライアント、保健医療従事者、コミュニティメンバーによるアクティビズムです。しかし、資金拠出国では、資金の増額を促す力になってきた草の根のエネルギーが失われようとしています。この流行がもたらす健康の脅威から次の世代を救うには、基本に立ち返る必要があります。HIVは終わっていないということ、そしていま撤退したのではこれまでの成果をすべて失い、すでに投じられている巨額の資金も無駄になってしまうことを政策決定者に再確認させるために、緊急の行動を一致して取りましょう。

安定的で持続可能な資金のための財源の強化
 この数年、HIV予防と治療のプログラムをまかなうための最も頼りになる財源はグローバルファンドと米大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)でした。HIVの医科学研究には米国立衛生研究所(NIH)、ビル&メリンダ・ゲイツ財団などが大きく寄与しています。こうした財源力のさらなる強化が、エイズ対策を前進させていくための軸になります。2016年には、グローバルファンドの今年から3年間の資金補充誓約が目標額に達し、近い将来の資金を担える見通しになりました。
 したがって、エイズ資金の供給源はしかりしているように見えるとはいえ、確実に調達できるかどうかという点では危うさも残っています。欧州各国政府の多くは、他の資金需要を優先させるために、国際保健と開発への支出を縮小しています。エイズ資金の最大の供給源となってきた米国でも、赤字削減などいくつかの要因により、国際的なHIV対策への資金が大きく減ってしまう可能性があります。こうした困難の克服には、しっかりと計算したアドボカシーを続ける必要があるのです。
 さらに国民所得のみで、援助資格を判断する考え方にも反対しなければなりません。HIVの影響が甚大なキーポピュレーションの人びとの多くは、中所得国に住んでいます。HIV関連のキーポピュレーションのニーズに対応している中所得国もありますが、多くはありません。資金配分の基準は国境ではなく、人であるべきです。

国内のエイズ投資の拡大
 エイズ支出の総額はここ2。3年、下降気味ですが、HIV予防、ケア、治療プログラムに公的資金を投入する国は次第に増え、エイズ対策への国内資金は増加しています。もちろん、国内資金の増加は歓迎すべき傾向ですが、ほとんどの国の支出額はなお、あまりにも少なく、とりわけ一次予防に向けられる資金は少額であることも認識しておかなければなりません。

挿入コメント
 「抗レトロウイルス治療普及の努力は高く評価しています。しかし、第3選択薬の組み合わせによる治療は依然として受けることができません。すでに第2選択薬の組み合わせでは治療できない患者がいるので、これは急務です。ウイルス量のモニタリング費用は以前より下がってはいますが、患者によってはいまなお、高すぎて使えません」
 ハーマイン・メリ博士、IAS会員、カメルーンの保健医療従事者

 経済力とHIV流行の影響の大きさを勘案すると、ほとんどの国はまだ、エイズ対策に十分な額の公的予算を投入しているとはいえません。商品市場の多くが崩壊した後でも、サハラ以南のアフリカは経済成長を続けています。アフリカおよび世界の政策決定者は、HIV予防、ケア、治療のプログラムを支えるためにこの成長を活用すべきです。こうした投資は労働生産性を高め、将来の医療費支出を抑え、子どもの成長を助けることによって、15倍の経済リターンを生み出すことを認識すべきです(注9)。
 いまドナーの資金が減れば、各国が国内支出を増額しようとする意欲も失われ、これまでの投資も無駄になってしまいます。多くの国がここ数年で得られた成果を得られなくなるのです。国内資金を増額させたものの、それだけでは十分に流行の重荷から脱しきれない国にとっては、罰を受けるようなものです。

保健医療人材への投資
 エイズ対策において、最も重要な資産は人です。保健システムがHIV陽性者を治療したり、HIVの新規感染を防いだりするわけではありません。人が行うのです。毎日働いている保健医療従事者は、しばしば大きな困難と闘いながら、HIV対策の最前線に立っています。しかし、その努力は十分に報われてはいません多くの国で保健医療従事者は極端な供給不足にあります。不足する人材はすでに720万人に達し、2035年には1290万人に拡大すると推計されています(注9)。80以上の国で、人口当たり保健医療従事者数はWHO勧告の最低基準を下回っています。
 この人材不足を解消するためにできることはすべて行い、同時に現在の保健医療従事者を大事にしなければなりません。しかし、HIV感染とエイズ関連の死亡を減らすことを望みながら、そのために働いてくれる保健医療従事者を失うようなことがあまりにもしばしば、起きています。必要なツールを得られない保健医療従事者がたくさんいます。安い賃金で、しかも厳しい職場環境のもとで働いているのです。研修や教育は不適切で、昇進の機会もほとんどありません。


『薬の価格を下げる』
 エイズ対策の新たな資金源を開拓する一方で、コストを下げる努力も必要です。中でも優先させなければならないのは、必要な薬の価格引き下げを働きかけ続けることです。2016年6月現在、世界で1800万人以上が抗レトロウイルス薬(ARV)による治療を受けています(注11)。治療薬へのアクセス確保には、この人たち、そしてさらに多くの人たちの生命がかかっています。低・中所得国ではARV第1選択薬の価格は過去15年で90%も下がっています(注12)。
 しかし、HIV治療薬の手頃な価格が将来も維持できるかどうかは危うい状態です。より高価で特許もかかっている第2、第3選択薬の需要増、世界貿易機関(WTO)のもとでの国別の特許制度、抗レトロウイルス薬のジェネリック市場への需要の集中などが脅威となるからです。高所得国が二国間および多国間貿易協定を通して、煩雑で理不尽な知的財産条項を押しつけるために、ARVなど必要な治療薬を必要な時に必要な場所で入手することが世界中で困難になっています。
 新たなHIV治療薬の開発に際し、メーカー側は低・中所得国でアクセスを拡大する手段として、ジェネリック製薬会社と自主的な使用許諾契約を結ぶようになっています。資金力の弱い国の患者が新しい薬を使えるようになるまで長年にわたって待ち続けるしかなかった時代に比べれば、こうした自主的使用許諾契約は大きな進歩なのですが、大きな欠点もあります。中所得国の多くを完全に排除してしまうことに加え、臨床医に煩わしい報告を求める契約であることも多いのです。また、ジェネリック製薬会社が安価な医薬品有効成分を探す能力を制限し、患者にとっては治療薬が利用しにくくなるような手段が含まれていることもあります。
 保健分野の有力エコノミストが入手可能なデータを分析した結果、多くのARVの製造コストは年間1人あたり80ドルに抑えられるとしています。ジェネリック製薬会社がこの程度の手頃な価格で治療薬を供給できるようになれば、すべての国がエイズ流行終結を目指すという約束からして、その動きを阻害することはできなくなります。

挿入コメント
 「私のジェネリック製薬会社はHIV抗レトロウイルス薬を1日1ドルで作れます」
   ユスフ・ハミド、シプラ会長 2000

 低・中所得国で手頃な価格の治療薬を使える用にすることが急務な一方、高所得国におけるこれらの薬の価格が高いために保健システムに大きな負担を課し、生死にかかわる治療が受けにくくなるという現実もあります。
 ただし、手頃な価格によるアクセス確保には課題があるといっても、薬の価格は今後数年でさらに下がることが期待できます。いくつかのARVの有効成分は間もなく特許期限が切れので、このことが治療を受ける人や保健医療システムにとって、とりわけ使用許諾契約から除外されてきた中所得国にとっては、救いになるはずです。
 HIVコミュニティは他の慢性疾患の対応策を求める活動と協力して、世界的な薬価値下げ要求を新たに進めていかなければなりません。隠された規制や煩瑣な報告の義務などがない透明性の高い使用許諾契約が必要です。各国には強制特許の採用に最大限、柔軟に対応することが国際法上の権利として認められています。必要な医薬品を必要な人が使えるようにするため、輸入など他のさまざまな戦略と並行して進めるべきです。


『力強い科学、果敢なアクティビズム』
 各国の国内対応はそれぞれに任せることを理解したうえで、IASは『科学』『人』『前進』という基本指針に則し、2017年に取り組む優先主要課題をまとめました。

科学:HIVの流行を好転させる科学の成果を支持し、理解を広める必要があります。
画期的な科学的成果は、会議場で議論しているだけでなく、クリニックやコミュニティで使えるようにしなければなりません。新たな手法と重要な科学的情報を会員やパートナーに伝え、その知識を実践や効果的な政策につなげていくのです。
IASは2017年に・・・

・ IAS教育基金を利用し、科学、コミュニティ分野の地元パートナーと協力しながら少なくとも6つの地域サミットを開催します。すでにモロッコ、ブラジル、ケニア、カナダで会議日程が決まり、他地域の準備も進んでいます。2016年にはウクライナ、セネガル、トルコ、ナイジェリアで開き、国および地域レベルの政策変更につながる最新の科学的成果を伝えました。
・ IAS2017で積極的に上記重要課題を取り上げ、学際的な意見交換を進めます。パリ会議のプログラムはHIV予防、治療薬の価格とアクセス、流行に対応するための資金見通しなどが重要課題です。HIV完治とがん研究、新たなHIVとC型肝炎研究の画期的成果といった分野横断的な課題の重要性も強調されています。
・ 科学を行動につなげるために必要なツールを会員に提供します。具体的には、会議で報告される最新の科学的成果をプレゼンテーションに利用しやすい知識ツールキットにまとめ、配布します。AIDS2016でも作成したこの資料シリーズは、IAS会員限定で提供し、専門的な発表やそれぞれの地元でブリーフィングを行う際に使用できます。

人:流行終結に不可欠なHIV分野の労働力、とりわけ次世代のHIV専門家の能力向上に投資します。
 保健医療従事者は、より健康的な将来を実現する要です。各国政府や国際ドナー、医療の専門家団体、市民社会と協力して、最前線の医療従事者の処遇を改善し、エイズ対策への貢献を認め、就労環境の設備を整え、成長とキャリアを積む機会を提供しなければなりません。政策やプログラムの策定には保健医療従事者が初期段階から参加すべきです。生死に関わるサービスの提供には何が必要か、それを最もよく理解しているのは、サービスを受けるコミュニティの人びとと医療従事者です。
IASは2017年に・・・

・ 臨床医や他の保健医療従事者がHIVケアのスキルを向上させるよう奨学生の数を増やします。奨学制度は現在、小児HIV臨床医学では認められています。HIVケアの専門的な技術を身につけられる機会を今後1年で拡大していきます。
・ 各国の計画策定者や臨床医、コミュニティメンバーがHIV陽性患者をしっかりとケアできるよう利用者本位の世界的な枠組みを作ります。保健医療従事者が様々な立場の人や地域の条件を踏まえて働けるよう、IASは2016年に資源利用手引きを作成しました。その手引きの充実をはかります。
・ コミュニティの成功事例を紹介する「私と私の保健医療提供者」を通して保健医療の最前線で働く人たちの活動を認め、良質なケアをたたえる国際基盤を確立します。

前進:世界的なリーダーシップの維持とエイズ投資拡大を後押しし、同時に私たちの活動の中心を担うスティグマや差別との闘いを続けます。
 エイズ運動の歴史はクライアントと保健医療従事者、アクティビストと政策決定者、研究者とコミュニティの間の協力の物語です。協力こそがスティグマと差別と排除に終止符を打つ唯一の方法です。IASは2017年に・・・
IASは2017年に・・・

・ 薬価やアクセスの課題を解決っするため、言葉だけでなく行動を起こし、ケアの質改善の現実的解決策を導き出すために、エビデンスに基づき、開かれた会話を進めます。
・ 人権と社会正義の課題に取り組む投資、アドボカシー、行動を強化するための世界声明「犯罪化の科学」の策定に加わります。
・ 科学研究の価値、プログラムの実施、コミュニティの参加とアドボカシーなど、HIV投資による世界変革の力を強化します。IASはパートナーと協力し、エイズ資金が世界に与える影響を政策決定者が理解するよう働きかけを続けます。

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