エイズ&ソサエティ研究会議・HATプロジェクト

アクセスカウンタ

zoom RSS 第91回AIDS&Society研究会議フォーラム報告「エイズキャンペーンとメディア」

<<   作成日時 : 2008/11/15 21:54   >>

面白い ブログ気持玉 1 / トラックバック 0 / コメント 0


第91回 AIDS&Society研究会議フォーラム
 「エイズキャンペーンとメディア」
 日時10月25日(土)午後3時〜5時
 場所 コミュニティセンター「akta」
     (東京都新宿区新宿2丁目15−13 第二中江ビル301)

 張由紀夫(Rainbow Ring) 「戦略研究としての啓発活動」
 東島由幸(TOKYO FM「バイブル」ディレクター) 「キャンペーンに見る媒体特性」
 宮田一雄 (産経新聞編集委員)  「エイズ報道とキャンペーン」

 HIV感染の予防啓発を進めるための戦略的キャンペーンの必要性が指摘されている。キャンペーンがより効果的かつ適切に、情報を必要としている人たちのもとに送り届け、行動変容を促すための有効な手段となるには、どんな戦略が求められているのか。それを探る研究班も編成されている。

 もちろん、対象をきちんと定め、目標をはっきりと示して、何が、どこまで、できたのかを測定することは大切であり、そうした作業を通し成果を明確に把握できるようにしておくような戦略の必要性を否定することはできない。そのことを踏まえたうえで、あえていえば、そうした戦略的キャンペーンに対しては、どこか情報操作にやすやすと乗せられてしまうような印象もまた、ぬぐいきれない。大切なんだけど、なんか嫌だなというか、ただ単に「けっこう」とばかりは言い難いものが残る。

 キャンペーンの戦略性に対し、メディアはどのようにお付き合いすべきなのか。逆にキャンペーンを推進する側はメディアに何を期待するのか。「戦略研究」として啓発活動に取り組むコミュニティサイドのアクティビスト、ラジオという音声に特化したメディアで息の長いエイズキャンペーンに取り組むディレクター、そしてエイズの流行という世界史的現象を報道する立場の新聞記者という3つの視点からの報告をもとに「キャンペーンとメディア」について検討する機会を設けた。

【張由紀夫氏】
 張氏は、エイズ啓発拠点である東京・新宿2丁目のコミュニティセンター「akta」で働くとともに、2006年から厚生労働科学特別研究事業「エイズ予防のための戦略研究(課題1)」という研究班の流動研究員として、首都圏のゲイコミュニティにおける戦略的な啓発活動に取り組んでいる。いわば、啓発の現場の当事者として戦略研究について報告した。

 張氏によると、戦略研究の啓発活動は、HIVを持っている人も持っていない人も社会の中で暮らしていることがリアルな現実として伝えられることを目指すLiving Together計画の考え方が大きく反映されているという。Living Togetherは、研究がスタートする以前からすでに特定非営利活動法人ぷれいす東京と、aktaの運営主体であるRainbow Ringが呼びかけ団体として取り組んでいたプロジェクトで、「HIVを持っている人たちは社会の中に確かに存在している。けれど、それを実感している人と、していない人の差は大きい。彼らのリアリティを伝えたい」との考え方に基づき、手記リーディングなどさまざまなイベントが実施されてきた。

 戦略研究そのものは、(1)検査を受ける人を倍に増やす、(2)(発症して初めて感染が分かる)エイズ発症者を25%減らす、という5年後の目標が設定されている。それを実現させることは簡単なようで実は難しい。恐怖をあおり、脅しをかけて検査件数を増やす手法もある。ただし、それではHIVに感染しているのではないかと心配する人はかえって、検査を受けにくくなり、結果として発症するまで感染に気付かないでいる人が逆に増えることにもなるからだ。「必要な準備を怠ったまま、検査、検査と人を煽り立てることは危険ではないか」と張氏は指摘する。

 戦略研究の最初の2年は、みんなに検査に行ってもらうために、怖がらせることは避けたいと考え、現実に向き合う前提として受け皿となるプログラムを先に作っておくための期間となった。具体的には以下のような事業が進められてきた。

(1)HIVマップ  HIVに関連した問題、およびHIVの問題とリンクしやすい分野に関する相談や情報提供に対応できるよう自信を持ってお勧めできるポータルサイトの作成。
(2)検査環境改善プログラム  MSM(男性と性行為をする男性)が安心して検査を受けられる環境を生み出すため、HIV検査を担当する保健所スタッフを集めて研修を行う。

 そうした中で、「対象層をゲイということで、ひとくくりにはできない」ということが啓発活動を進めるうえでの留意点として明確になってきた。年齢も様々であるし、東京都内だけでも、新宿、新橋、上野、浅草とそれぞれのゲイコミュニティで異なる特徴があり、またその中にもいろいろなタイプの人がいる。これはごく当然のことなのだが、ゲイコミュニティに限らず、なにかひとつのカテゴリーを立てたときには、あたかも単一かつ求心力の強い集団が存在するかのような錯覚に陥ることは往々にしてある。受け皿となるプログラムを先行して作るという作業の中で、そうした事情が明確に認識されたことは準備に時間をかけたことの成果といえるだろう。

 こうした経験を踏まえ、現在は対象となるグループをより細分化し、それぞれのグループに向けた協力体制の構築が進められている。新宿のゲイコミュニティでは、新宿2丁目を中心にしたゲイカルチャーにあわせた啓発の手法が成果をあげているが、同じことを他の地域で行って、そこにいる人たちが気持ちよく情報を得られる場を提供できるとは必ずしも限らない。地域によって啓発の進め方も変わってくる。また、エイズに関する基礎的な情報を提供し、検査を受けるための助けとなるような啓発冊子にしても、聴覚障害者のMSMに向けた冊子、薬物依存やメンタルな問題を抱えている人たちのための冊子などの作成が進められている。また、いわゆるゲイデビュー前の若い子に対し、HIVについて知ってほしい情報を伝える方法も工夫されている。

 さらに検査を呼びかける対象の人たちでなく、検査を提供する検査スタッフに対する啓発を進めていく中で、MSMだから対応に気をつかうといったことではなく、基本的には、どんな人が座っても通じるような対応の仕方というものが必要なことも認識されてきた。MSMが社会の中のどこにいるのか。それは分からない。線引きは不可能だからだ。そうなると、対象を定め、さらに、その対象な中にも存在する多様性に対応するような細分化の方向性が必要とされる一方で、より大きな社会に向かってメッセージを届けていくことも必要になる。ゲイコミュニティに対象を限定するのではなく、大きな活動を目指していくことの重要性もまた、張氏らのこれまでの戦略研究を通し、新たな課題として認識されるようになっているようだ。

【東島由幸氏】
 東島氏はフジテレビの朝のワイドショー、およびFM東京の夕方の報道番組でそれぞれ番組制作に携わり、その中でマスメディアを通じたエイズキャンペーンに関与する経験を蓄積してきた。テレビとラジオという2つの媒体特性を踏まえ、とくにラジオにおけるキャンペーンの大きな可能性に言及している点で、興味深い報告となった。

 エイズに関しては当初、テレビの番組の中で、途上国のHIV陽性者の状況を伝えるレポートを担当した。この番組の中で、報告者となった佐々木恭子アナウンサーから「世界の状況を紹介し、日本の現状を取り上げないままでいいのだろうか」という疑問を投げかけられ、佐々木アナに伴走するかたちで、日本のHIV/エイズ関係者に対する取材を進めることになった。

 しかし、その結果、テレビで放送されたものに関しては、不完全燃焼の思いが残ったという。テレビの番組は2000万人前後の視聴者に向けて放送することを前提に作られる。それほどのマスを対象とすることによって、現場で取材した際に感じることと、放送される内容が必ずしも一致していないという事情が出てくるからだ。

 テレビという映像が大きな要素を占めるメディアの場合、HIV陽性者の発言を取り上げることが困難だといった事情もあり、メディアでエイズについて取り上げる際の制約といったものは現状では確かにある。このため、東島さんも「やっぱりメディアでは、できないのかな」と思っていた時期があり、そうした時期にちょうどラジオと出会ったことで、新たな可能性が開けていくことになった。ラジオの場合、音声のみで情報を伝えなければならないという媒体としての制約が逆にエイズキャンペーンのツールとしては強みになり、たとえば、HIV陽性者は映像によって明確に個人を特定されてしまうリスクをほとんど感じることなく、自らの声で、自らの意見や希望などを伝えることが可能になる。

 また、聞いている人の数がテレビに比べれば少ないこともあって、メッセージもかなり個別的な内容を伝えたいかたちで送り出すことが可能になるといったことも実際の番組を作る中で分かってきた。HIV陽性者の手記を他の人が読む手記リーディングなども、ゲストに著名人を招いて公開のトークショーを開き、それを中継ないし収録して流すことができる。キャンペーンイベントというかたちで現場を形成する新たな試みとしても注目すべき動きが生まれた。

 フォーラム会場では、実際に放送で使用された手記リーディングのイベントのもようなどのテープも流された。音声に伝達手段が限定されていることは、必ずしも制約であるとは限らず、逆に音声に情報を集約できるという可能性にも転化しうる。テープを聴くことでフォーラム参加者にもそうした事情が確認できたようだ。

 ラジオは何か他のことをしながら聞いている場合が多いことから、テレビに比べると、ゆるいメディアという特徴があることも指摘された。この点は、テレビ番組が一回ですべての内容を盛り込むことを要請されるのに対し、ラジオは必ずしもすべての情報を盛り込まなくても構わないといった番組制作上の特色につながり、エイズ対策のような息の長い啓発活動が必要とされる分野では興味深い指摘となった。

 東島さんの報告でもうひとつ注目しておくべきなのは、何回にも分けて取り上げることを通して、スタッフの取り組み方が大きく変わってきたという点だ。公開のトークショーおよび手記リーディングも含めたキャンペーンとして、何度もいろいろな切り口で取り上げていくうちに、いろいろな立ち位置にいた人が大きく変わりはじめ、皮膚感覚としてHIV/エイズをとらえられるようになったという。限られた予算の中で、手弁当的に出演を依頼することから、逆にアーティストとスタッフのコミュニケーションが密になるといった体験も生まれた。出演した人がその場で感じたことを持ち帰って、他の場所で話をする機会があれば、そこにも変化が生まれるといった効果が期待できるのではないか。そんな手応えを感じることもできたという。


【宮田一雄】
 今回のフォーラムの企画者でもある宮田一雄はまず、今年6月8日付の英インデペンデント紙に「異性間のエイズの世界的流行の脅威は去った。報告書認める」との見出しで掲載された記事について紹介した。この記事は《エイズの流行のアウトブレークから25年を経て、WHOとUNAIDSが、地球規模の異性間の流行は姿を消したことを認めた》という文章で始まっている。本当だったら大変なことだ。

 世界保健機関(WHO)と国連合同エイズ計画(UNAIDS)の動揺も大きかったようで、6月11日には「2008年6月8日付インデペンデント紙に掲載されたエイズ記事に対する訂正」という声明をニューヨーク発で発表し、次のように書いている。

 《最近のメディアの記事には、エイズの流行をめぐるWHOとUNAIDSの見解に対し、誤った解釈があることを明確にしておきたい。日曜のインデペンデント紙に載った「異性間のエイズの世界的流行の脅威は去った。報告書認める」と題する記事には、誤解を招きやすい発言が含まれ、HIV感染の流行の複雑な現実を無視した推測で結論が導かれている》

 特定の新聞を名指しに「訂正」とは穏やかでないのでウエブサイトで元の記事を読んでみると、記事は全体として次のようなことを述べているように思えた。

 《アフリカのように異性間のHIV性感染が社会全体に広がる可能性は、他の地域では非常に低くなった。しかし、エイズとの闘いはいまなお手に負えない課題であり、非常に長く続く現象なので、関心を低下させることはできない。実際にどこで感染が起きているのかを重視し、感染の高いリスクにさらされている集団に焦点を当て、対策の効果が立証されている介入方法に資金をシフトさせていくべきではないか…》

 必ずしも暴論ではないが、強めの見出しと書き出しで、誤解を招く印象が生まれたのではないか。どうしてそうなるのかといったことを出発点にキャンペーンのメッセージと報道との微妙な関係を考えてみたいというのが、企画のそもそもの趣旨だったという。出発点としては興味深いのだが、残念ながら報告者自身の思考が十分に整理されているとはいえず、今回は問題意識を徐々に絞りつつある過程を報告しているという印象だった。

 そうした混沌の中にあって、ひとつ注目される指摘はエイズキャンペーンの中でしばしば使われてきた「正しい知識の普及」というメッセージへの強い違和感が示されたことである。エイズの流行のように比較的、新しく登場し、なおかつ重大でしかも長期にわたって継続する現象の場合、「正しい」とされていたことが、時間の経過によって正しくなくなることはしばしばあるからだ。

 たとえば、世界のHIV陽性者数は昨年、大幅に下方修正された。それまでの発表数値が「正しいもの」とされてきたエイズの流行の「現実」もまた、下方修正によって変更を余儀なくされる。あたかも株価の急速な下落によって実体経済が影響を受けてしまう昨今の経済情勢のように、バーチャルとリアルの境界が見極めにくい高度情報化社会の中で、「正しい知識の普及というメッセージの罠」はいたるところに仕掛けられている。

 パブリックリレーションズ(PR)の基礎的な理論によると、PRには「継続的アピール」と「話題作り」の2つの手法があるという。
 《継続的アピールの手法は、知らず知らずのうちに大衆がこちらの思い通りの印象を受けるように働きかけるやり方だ》
 《話題作りの手法は、継続的ではないが、大衆に対して瞬間的に強烈な印象を与えるやり方である》
 《どちらの方法を提案するか、あるいは両方を同時に提案するのかどうかは、目的とそれぞれの可能性を十分に調査したうえで決定されることになる》
 (注)いずれもエドワード・バーネイズ著『プロパガンダ教本』(英題Propaganda、1928年)より。バーネイズは「広報・宣伝の父」と呼ばれる米国の広報マン。

 前者の継続的アピールの手法には情報操作的な印象も強く、報道メディアにとっては警戒しておかなければならない手法でもある。この点はきちんと認識しておく必要があるが、そのうえであえて指摘しておけば、エイズの流行のような長期にわたる現象においては、継続的アピールの手法にもっと注目していく必要もあるだろう。短期的な話題作りを追い求めるキャンペーン手法が、時の経過によって裏切られ、結果として失敗に終わるといったことは、これまでにもしばしば経験しているからだ。

 一方、報道側からすれば、短期的話題作りに対しては、ニュースとしてその場その場で手慣れた対応を取ることが可能である。逆に継続的アピールに対しては、功罪の両方を含め、うまく対応ができてこなかった。少なくともエイズ報道に関して言えば、そうした側面があったことは認めざるを得ないだろう。

【主催者から】
 キャンペーンを展開する側が打ち上げ花火のように話題性に飛びつき、愚にもつかない広告コピーをありがたがる。メディアの側も安直にそうした傾向を歓迎する。似たようなことを繰り返しながら、今年もまた世界エイズデーが近づいてきた。わが国のエイズ啓発はいつまでにぎやかな敗北を続けていくのだろうか。フォーラムでは残念ながら、こうした疑問に対する解答、ないしは結論が見いだされたとはいえない。だが、HIV/エイズ対策の分野で戦略的にキャンペーンを進めていく動きが出ていることには、長期的な課題に対する継続的な報道の新たな可能性をさぐるうえでも注目しておく必要がある。また、キャンペーンの有効性といった観点からすれば、キャンペーンを展開する側にもマスメディアとの恒常的な信頼関係構築の場は必要だろう。今回のフォーラムがそうした機会を生み出すきっかけになることを密かに期待しつつ、さらに継続する企画を考えていきたい。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 1
面白い

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
第91回AIDS&Society研究会議フォーラム報告「エイズキャンペーンとメディア」 エイズ&ソサエティ研究会議・HATプロジェクト/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる