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zoom RSS 『アジアのエイズ再定義〜効果的な対策を作る』エグゼクティブサマリー2

<<   作成日時 : 2008/08/03 21:27   >>

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(解説)アジア・エイズ独立委員会の報告書の続きです。報告書の英文は
http://data.unaids.org/pub/Report/2008/20080326_report_commission_aids_en.pdf
 



アジアの流行の将来予測

 高いリスクにさらされている集団に共通する特徴はあるものの、アジアのHIVの流行は国によっても、また一国の中でも、かなり形態が異なっている。アジア地域のHIVの感染状況およびその影響について適切な評価を行うためには、いま最も大きな感染のリスクにさらされているのは誰なのか、将来はどうか、そして、どんな行動が大規模な感染の拡大を招くのかを理解することが重要である

 委員会は報告の中で、政策分析の基盤となる一連の将来予測を行うため、アジア流行モデルを採用した。このモデルはイーストウエストセンターと同センターのアジアにおける研究協力者によって開発されたもので、アジア地域によくみられるHIV感染の拡大パターンを踏まえた政策ツールである。また、感染の最も高いリスクにさらされている集団(セックスワーカーとその客、薬物注射使用者、男性とセックスをする男性、およびその妻)の規模と行動に関する各国ごとのデータを用い、それぞれの国で流行の拡大を促してきたさまざまな要因を把握できるよう国別のモデルも作られている。HIV感染の傾向を予測するとともに、このモデルは異なる集団の間でどのようにして新たな感染が広がっていくのかについても詳細な情報を提供している。このことは、予防対策のどこに力を入れれば最も大きな効果があるのかを把握する助けになるだろう。

 性の売買が与える影響は重大である。アジアではお金で女性からセックスを買う男性の数は薬物注射使用者や男性とセックスをする男性よりも圧倒的に多い。したがって、このグループの男性がおそらく、将来のHIV陽性率を決定づける最も重要な要因になるだろう。アジアの男性の売春利用率は高い。平均すると、1人のセックスワーカーには約10人の客がいる。客の回転率はHIV感染の拡大の主要な要因である。回転率が高ければ、性売買におけるHIV感染の急速な拡大に火を点けるかなり多くの感染機会が生まれることになる。

 売春の際のコンドーム使用率が低いことがHIV感染の拡大に寄与している。1991年に政府がコンドーム使用の大々的なキャンペーンを開始したタイのような国では、男性の特定の集団およびセックスワーカーの間でコンドームの使用率が上がり、HIV陽性率は下がったことを調査結果は示している。セックスワーカーのコンドーム使用を高めるためのプログラムは、アジアではHIV感染の拡大を抑えるための他のいかなる介入方法よりも機能するだろう。

 薬物注射使用者は、感染のリスクにさらされたもうひとつの集団として重要である。このグループの感染を予防することが最も大きな効果があることは明らかである。中国の香港特別区では、ハームリダクションプログラムが何年もの間、薬物注射使用者のHIV陽性率を低く抑えるのを助けてきた。薬物注射使用者のHIV陽性率が低い国は、薬物注射を減らすこと、消毒された注射器具を使うこと、薬物注射使用者およびそのセックスパートナーにセーファーセックスを奨励することなどの予防対策に力を入れるべきである。

 残念なことに、アジア諸国ではそうしたプログラムはごくわずかであり、それも「ブティック・プログラム」であることが多い。薬物注射使用者のHIV感染の流行を予防することは、より広汎な流行を回避する方法としても極めて有効なものになり得る。しかし、すでに手遅れの国も数カ国ある。これらの国では、薬物注射使用者のHIV陽性率がすでに高く、薬物注射使用者が売春の売り手および買い手として性売買の場にもHIVを持ち込んでいる。中国のいくつかの地域ではたとえば、女性の薬物注射使用者のほぼ半数が性を売っていると答えており、客との性行為の際に薬物注射使用者ではないセックスワーカーよりもコンドームを使用しない傾向が強い。

 アジアでは、新規感染の中で男性同士の性行為が占める割合が高まっており、タブーとして話題にするのを避けることはもはやできない。一人の相手だけとの同性間のセックスはアジアでは非常にまれである。社会的なタブーと差別が強いので、男性とセックスをする男性の多くが女性ともセックスをしており、多くは結婚しているであろうと考えられる。また、男性とセックスをする男性の多くが、多数の男性パートナーと性行為をしており、コンドーム使用率は低い。アジアの多くの都市で、このことは男性とセックスをする男性の間でHIV陽性率が急速に上昇する結果をもたらしている。一方で、このグループには、HIV感染予防のサービスが提供されれば、理解もまた劇的に普及する傾向もある。

 アジアのHIV感染の流行では、若者のカジュアルセックスは依然、マイナーな要因にとどまっているとする証拠が示されている。それでも若者がそうした行為をとらないようにするため、相当な額の資金が投入されてきた。

 アジアの成人のHIV陽性者の4人に3人は男性であるが、女性の比率が徐々に増している。2000年には19%だったのが、2007年には24%を占めていた。女性のほとんどは、夫またはボーイフレンドとのセックスでHIVに感染している。その夫やボーイフレンド自身の感染は売春や薬物注射によるものである。

 したがって、女性の感染を防ぐための最も配慮の行き届いた方法は、彼女たちの夫が感染するのをまず防ぐことである。残念なことにそうした予防プログラムを提供しようという試みはあまりなされていない。

 アフリカ諸国とは異なり、アジアでは性的にアクティブな層全体を予防のターゲットにしなければならないような広汎流行期(‘generalized’ epidemic)を経験している国はない。薬物注射、男性同士のセックス、売春とは無関係にHIVが広がっている国は、アジアのどこにもない。低流行期(low-level)、局限流行期(concentrated epidemic)、広汎流行期(generalized epidemic)という国際的な分類は、アジアの流行の性格と力学を表現することはできない。この弱点はかなり以前から知られていたが、分類の改善は試みられることがなかった。委員会は、広く行われているリスク行為、およびそうした行為が新たな感染をもたらす度合いをもとにして新たな分類の枠組みを作り、その有効性を確認するよう提言する。それができるまで、委員会はアジアの4段階の流行シナリオを提示する。潜在期(latent)、拡大期(expanding)、成熟期(maturing)、そして縮小期(declining)である。これらのシナリオの詳細な分析は第2章の終わりのテクニカル・ノートをご覧いただきたい。

HIVが与える多くの影響

 エイズの流行は様々なレベルで影響を与えている。家庭のレベルでの影響が最も大きく、年間のコストは総額20億ドルに達している。委員会は包括的な介入プログラムのパッケージを直ちに導入すれば、今後10年間の金額はその50%に減るだろうと推計している。

 おびただしい流行の影響は、エイズに関連した病気の影響を和らげる緩衝材もなければ、公的な社会保護施策からの支援も得られていない貧困家庭に集中している。子供たちは両親の介護のために教育を受けることを諦めなければならないことがしばしばある。HIVに感染した夫の介護を行う妻はのけ者にされ、未亡人は家や土地を追われることになる。アジアでは、女性と子供はエイズの流行の重荷を極端に負わなければならないのだ。

 現状の対策のままで推移すると、アジアではエイズの流行により2015年までにさらに600万世帯の家庭が貧困ライン以下となるであろう。エイズによる死亡は5000ドルの収入(1人1日あたり1ドルで14年分に相当)の喪失を意味している。実際に今後20年間のエイズの流行がもたらす経済コストは、SARSの流行が5年ごとに襲ってきた場合にかかるコストに相当している。


関連課題と取り組む

 貧困層および、セックスワーカー、薬物注射使用者、男性とセックスをする男性といった排除されやすい集団にとって重要なことはHIV関連サービスへのアクセスである。この点はHIVリテラチャーや対策プログラムを組み立てる際にしばしば無視されてきた。HIV対策が成功をおさめるには、なによりもコミュニティレベルで残っているそうした障壁に取り組み、対策の実現に向かっていくような環境を整えていくことだ。そうした環境はそれぞれの土地でサービスへのアクセスを妨げている障害物を取り除くことになる。また、政治の指導力によって、セックスワーク、同性愛、薬物注射針・注射器具の使用を非犯罪化すれば、感染の最も高いリスクにさらされている集団の間にそうした環境を生みだすことができる。そのためには政策を支持するための活動や地方政府、地元有力者との橋渡しなどに十分配慮しながら進めていく必要がある。診療所への通院手段の提供や無料の抗レトロウイルス治療の普及、貧困家庭が治療のネットワークに入れるようにするためのコミュニティグループやNGOの協力などによってもそうした障壁を取り除くことができる。

アジアの流行を抑えるにはどのくらいの資金が必要か?

 委員会はHIV介入を効果とコストによって、高コスト/高効果、低コスト/高効果、低コスト/低効果、高コスト/低効果の4つのカテゴリーに分類している。政府は効果の高いものを優先させたうえで、コストはどうなのかを考えるべきである。

 アジアでは、エイズ対策に優先的に回すべき資金の支出枠を設けることが可能である。ほとんどのアジアの国では、流行の度合いにもよるが、その基準は人口1人あたり50セントから1ドルだろう。
 
 HIVの流行と闘うために利用可能な国際資金が増えているのに対し、国内投資はそれに見合ったペースで増えているとはいえない。アジア各国の国内予算の支出は他の地域に比べると増加の速度が遅い。外部からの資金は困難を生み出すおそれが強い。政府がコントロールできない資金に頼っていたのでは、中長期のプログラムを継続したくても、妥協を強いられることになるかもしれない。セックスワーカーに対する予防プログラムは無視して若者の啓発教育プログラムに資金を出すなど、外部からの資金がその国の優先施策とあわないプログラムの領域にターゲットを絞ろうとするようなことも起きる可能性もある。資金配分の優先順位は流行のパターンや動向を反映したものでなければならない。その意味では、アジア諸国にとって、いまこそが実施状況を改善するいい機会であろう。

 資金確保のための努力をゆるめるべきではない。資金に関する分析によると、アジアでは現在、年間で64億ドルの資金が必要とされているのに対し、実際に利用可能な資金は12億ドルである。可能性のある介入策に対する評価は、効果の面から行わなければならない。それが不可欠である。セックスワーカーとその客のHIV感染予防に焦点をあてたアジアのエイズ対策プログラム10件について、委員会はアジア流行モデルを使い、費用対効果に関する再検討を行った。その結果、これらのプログラムは、一般的な予防対策に比べ、同じ費用で7000倍も新規感染を防ぐことができることが分かった。このほか非常に効果が高く、もっと優先させるべきプログラムとしては、母子感染予防プログラム、対象を絞ったカウンセリングと検査プログラム、抗レトロウイルス治療プログラムがある。

 すでに確認されている根拠に基づき、委員会がこの報告書で推奨する集中的な予防パッケージの目標は以下のようになる。

 ・セックスワーカーとその客のコンドーム使用率を80%以上にあげる。
 ・セックスワーカーとその客の性感染症(STI)を半減させる。
・薬物注射使用者(IDU)の注射針共用、および共用による注射の割合を半減させる。
 ・男性とセックスをする男性のコンドーム使用率を80%以上に上げる。

 こうしたレベルの行動変容がアジア地域全体で達成できれば、新たな感染は着実に減り、域内のHIV陽性率はゆっくりと低下し始めるだろう(抗レトロウイルス治療が多くの命を救わなければ、もっと急激に下がっていくだろう)。このようなパッケージにより、2008年から2020年までの間に次のような成果の達成が期待できる。

 ・新たな感染が500万人分減少する
 ・2020年までにHIV陽性者数が310万人減少する
 ・エイズ関連の死亡が40%減少する
 ・域内におけるHIV陽性率が着実に低下する

 アジアなら、こうした対応は可能である。また、HIV対策に効果的に取り組むことは、より広範な公衆衛生分野に利益をもたらし、社会開発の強化を助けることにもなる。問題は、世界で初めて域内のパンデミックを反転させるという成功物語を達成するために必要な政治の意思がアジアにあるかどうかである。

 効果的な政策、対策プログラムは何百万という人の生命を救うだけではなく、対策に取り組まなければいずれ抗レトロウイルス治療や影響緩和のために費やさざるを得なくなる巨額の資金の節約になることも、アジア各国の政府指導者は理解する必要がある。HIV感染の予防のコストは、予防できなかった場合のHIV陽性者に対する治療やケア、生活支援にかかる費用よりはるかに小さい。適切な予防に対して1ドルの投資を行えば、将来、流行が広がって治療にかかるコストを8ドル節約することになると委員会は分析している。

 アジア各国の政府指導者は、2015年までにエイズの流行を拡大から縮小に転じるというミレニアム開発目標(MDG)を達成するために解決策を明確に示し、それを実現させることをはっきり約束すべきである。それはいますぐに何かひとつやればできるというものではない。政策の策定から実施戦略に至るまで調和の取れた行動計画が必要である。

 HIV対策に対する投資が適切かどうかという議論は避けられない。以下のような提言を実行するための果敢な努力が続けられれば、それは可能である。

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