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zoom RSS 『アジアのエイズ再定義〜効果的な対策を作る』 エグゼクティブ・サマリー1

<<   作成日時 : 2008/08/02 23:05   >>

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 (解説)アジアのエイズの流行について、経済学者や医学者、市民社会代表、政治家ら9人の委員で構成する「アジアのエイズ独立委員会」がまとめた報告書『アジアのエイズ再定義〜効果のある対策を作る』は2008年3月26日、ニューヨークの国連本部で委員会のメンバーが記者会見を行い、発表しました。委員会は2006年6月に発足、ほぼ1年半かけて5000点以上の関係文献を読み直し、各国政府やHIV陽性者グループ、エイズ対策のNPO関係者など600人以上からヒアリングを行ったうえで、報告書をまとめたそうです。その「エグゼクティブサマリー」の日本語仮訳です。サマリーだけでも英文で19ページもあるので、何回かに分けて掲載します。
 報告書の英文は
 http://data.unaids.org/pub/Report/2008/20080326_report_commission_aids_en.pdf



『アジアのエイズ再定義〜効果的な対策を作る』 エグゼクティブ・サマリー1


 2006年6月にアジア・エイズ委員会が作られたのは、拡大を続けるHIVの流行に対し、アジアがきちんと対応もできず、拡大のペースに追い付くこともできないという認識があったからだ。委員会の大きな使命は、アジア地域で拡大するエイズの流行の現状と中長期の社会経済的影響を分析することだった。委員会は5000点以上の論文を読み直し、幅広い分野にわたる約30の新たな調査研究を委任し、30人以上の専門家にアジアのエイズと取り組むための創意工夫に満ちた新たな手法を検証、提案する作業にあたってもらった。また、コミュニティを基盤にした組織をはじめとする市民社会のメンバー約600人から聞き取り調査を行った。さらにサブリジョナルなワークショップを2回開くとともに5カ国に調査団を派遣し、政府および市民社会の代表からHIVの流行の現状と対策について聞き取りを行った。

アジアにおけるエイズの流行の現状

 巨大な人口を抱えるアジアでは、HIV陽性率が低く見えても、陽性者の実数は多い。国連合同エイズ計画(UNAIDS)と世界保健機関(WHO)の推計では、アジアには2007年末現在、490万人(370万〜670万人)がHIVに感染して生きている。このうち44万人(21万〜100万人)は07年の1年間に新たにHIVに感染した人である。一方で、07年には年間約30万人(25万〜47万人)がエイズ関連の疾病で死亡している。(注1)

 累計では、約20年前にアジアで最初のHIV感染が報告されて以来、この地域では推定900万人がHIVに感染している。また、これまでに男性約260万人、女性95万人以上、子供約33万人がエイズ関連の疾病で死亡したと推計されている。

(注1)UNAIDS/WHO (2007), 2007 AIDS Epidemic Update, Geneva: UNAIDS.

 アジアの多くの国がエイズ対策に取り組み、HIV感染が減少傾向に転じた国もわずかながらあるとはいえ、AIDSは現在、アジアの15〜44歳の成人層では結核やその他のいかなる病気よりも大きな死亡原因となっている。アジアのHIV感染の流行は現在のアフリカ諸国と同等の深刻な事態になるというおそるべき警告から、アジアの社会規範と道徳が感染を抑えてくれるのではないかという自己満足に近いものまで、将来予測も広い範囲にまたがっている。この報告書が示しているように、どちらの見方も正確とは言えない。混乱を招き、中途半端もしくは不適切で見当違いの対応をもたらす結果になるだけである。

 流行の姿は国によってかなり大きく異なっているが、共通の特徴として重視すべきものもある。つまり、アジアの流行は主に、感染防止策をとらない売春、薬物注射使用者によるHIVで汚染された注射針・注射器の共用、そして男性間の感染防止措置をとらない性行為で広がっている。しかし、アジアで最も大きなHIV感染の拡大要因であり、最大の感染人口を形成してもいるのは、社会の「主流」層が多数を占める「セックスを買う男性」である。セックスを買う男性のほとんどは既婚者か、やがて結婚する人であるため、夫としかセックスをしないという明らかに「低リスク」の女性もかなり多くがHIV感染の機会にさらされている。こうした男性たちの女性パートナーに対する効果的な感染予防の方法はアジアではまだ、開発されていない。だが、明らかに必要である。

 アジア各国の様々な推計を集約し、委員会はアジアで約1000万人の女性が性を売り、少なくとも7500万人の男性が常連として性を買っていると推計した。さらに男性同士のセックスと薬物注射により、ひとたびそのネットワークにHIVが入ってくれば感染の高いリスクにさらされることになる男性約2000万人が加わることになる。これらの男性、とりわけ薬物使用者から、いつもセックスの相手になっている女性にもHIVが感染する可能性があり、このことは数百万人の女性がさらに感染リスクにさらされるということを意味している。

 アジアでは性パートナーが複数いる女性は比較的少数であることから、HIV感染の連鎖は妻やガールフレンドが感染したところで止まることになる。これらの女性から胎児、新生児にHIVが感染することはある。しかし、これらの女性から他の男性にHIVが感染する確率は一般的に小さい。これは現在のアジアのエイズの流行が、売春や薬物注射、男性同士の性行為とは別個に「ジェネラルポピュレーション(一般人口層)」の間で広がっていくことは極めて考えにくいということでもある。そして最も重要なことは、感染の高いリスクにさらされているこれらの集団のHIV感染を減らす予防の努力こそが、流行の制御につながるということだ。

 HIVに関連した偏見(スティグマ)と差別は、必要なサービスの利用を妨げ、アジアのエイズ対策を台無しにする。たとえば、HIVカウンセリングと検査のサービスの利用率は低い。HIV陽性者に対する差別は、雇用や住居の確保、保険、社会保障、教育、保健、相続権などに影響をおよぼす。保健サービスの分野でHIV陽性者に対する強い偏見が見られる国もある。しかも、HIV感染の最も高いリスクにさらされている人たちはすでに差別を受け、社会から排除され、国によっては犯罪者として扱われているのである。

 各国のHIV/エイズ対策

 カンボジア、タイ、それにインドのいくつかの州など、対象を明確にし、効果をあげている例はあるものの、アジアのHIV対策は後手に回っていたり、途中でくじけてしまったりしているケースの方が多い。エイズの流行を抑えられるだけの緊急性や一貫性のある対策のレベルには達していないのだ。

 アジアの数カ国ではこの10年、取り組みを強化し、政治の関与や支援が低レベルの段階から中ないし高レベルへと移行している。例外的に先見の明のある政治家が認識を深めてきたからだ。彼らはHIV関連の法整備を訴え、対策により多くの資金を投入することを求め、エイズの流行に対し政府が説明責任を果たすよう働きかけてきた。それでも、国家元首が重要な役割を担い、国のエイズ対策プログラムの先頭に立ってきたといえる国は、アジアではわずか2カ国である。課題を設定し、効果が期待できる対策を進めるうえで政治の関与と支援は重要な前提条件となる。偏見と差別の問題と取り組み、性に関する議論を妨げるようなタブーを克服するには、指導者の役割が軽視できない。明らかにアジアのHIV対策は政治のリーダーシップが鍵を握っているのである。

 多くのアジアの国々が国家エイズ委員会(NAC)を設立しているが、委員会の政治的な地位や力、対策の内容には大きな差がある。国家エイズ委員会は概して、それぞれの国のエイズ対策を効果的に調整できていない。あまりにもしばしば、必要な権限を与えられず、事務局のサポートもなく、国の最高決定機関からの直接の指示も受けていない。

 世界エイズ・結核・マラリア対策基金の国別調整メカニズム(CCM)は資金の申請をきちんと行えるようにすることにはかなり成功している。しかし、プログラムの実施状況はあまりよく監視できていない。CCMはまた、主要な利害関係者、とりわけ流行に影響を受けているコミュニティを代表する機能をもっと果たすことができたはずだ。こうしたコミュニティの代表の参加は表面的なものにとどまることが多く、決定への参加プロセスも活かされていなかった。委員会が14カ国の対策を検証したところでは、すべての国が国家戦略計画を作っていたが、その内容には大きな格差がある。いくつかの国では資金の配分が計画で示された優先順位通りになっていなかった。全体として、ほとんどの計画が、対策の実施、管理、資金確保に必要な手段に欠けていた。

 いくつかの国の戦略計画は予防と治療のバランスがとれていなかった。感染の最も高いリスクにさらされている集団への対策が重視されていないものもあったし、包括的な抗レトロウイルス治療計画がないもの、HIV陽性率が高い地域での影響緩和プログラムがないものもあった。高いリスクにさらされている集団のためのプログラムがあるように見えるところでも、たとえば薬物使用者を逮捕、収監するなど、必ずしもプログラムの内容は効果的とはいえなかった。男性とセックスをする男性のためのプログラムに必要なだけの資金が投入されている国はほとんどなかった。2005年には、アジア全域を通して、セックスワーカーのうち3人に1人しか、HIVに関連したサービスを受けることはできなかった。アジアで抗レトロウイルス治療を受けることができたのは、治療が必要な人のわずか26%だった。

 予防プログラムの効果を上げるには、カバー率が重要になる。推計モデルによると、最も高いリスクにさらされている人口層の60%がより安全な行動をとるようにならなければ、HIV感染の流行を縮小に転じることはできない。そして、そのレベルの行動変容を実現させるには、サービスのカバー率を少なくとも80%に上げる必要がある。

 アジアの数カ国では、過去10年にHIVデータの収集が改善され、現在では8カ国が第2世代サーベイランスを実施している。しかし、HIVに関する情報を分析するシステムと能力はいまなお、多くの国で不十分である。

 アジアのいくつかの国では、薬物注射使用者(IDUs)に対するハームリダクション(被害軽減)プログラムなど、それぞれの流行の特徴にあわせたHIV戦略を採用している。しかし、そうした集団に対する偏見はいまなお、法律や政策や法執行機関の実施指針にも残っている。男性とセックスをする男性、セックスワーカー、薬物使用者に対するハラスメント(迫害)は、アジア地域では極めて一般的に見られることが報告されている。アジアのほとんどの国で、セックスワーク、薬物使用、男性間のセックスは、犯罪行為とされたままだ。こうした行為の犯罪化は、そうでなければ大きな支えになるHIV政策を明らかに無力化してしまう。そうならないよう、法執行機関や裁判所が協力するよう説得する必要がある。そうした説得は、政治の最も高いレベルの指導者が行うことが有効である。

コミュニティの参加

 ほとんどすべての国で、エイズ対策はコミュニティレベルから始まり、HIV陽性者やその家族、友人、恋人、ケア提供者、アクティビストらの努力で推進されてきた。HIVプログラムの実施とサービスの提供にはコミュニティの関与が不可欠なことはいまや広く認められている。

 不幸なことに、アジアでは参加の度合いにかなりむらがあり、うわべだけのところも多い。基本中の基本として、人々が信頼して情報を受けられるようにするにはコミュニティの参加が不可欠である。アジアにおける調査では、ピア(仲間の)アウトリーチワーカーは、一般の政府機関や社会メカニズムではじかに働きかけることが困難な薬物使用者の80%に連絡をとることができた。また、インドのアンドラプラデシの6000人以上のセックスワーカーを対象にした研究では、セックスワーカー支援グループに参加していないセックスワーカーは、コンドームをたまにしか使わないという回答がグループ参加者の4倍も多かった。

 コミュニティの参加は何かと意見が対立することが多い事柄について議論できる場を作り、政治的、社会的指導者のHIVに対する理解を大きく広げることにもなる。NGOとコミュニティ・ベースの組織は、微妙な話題を積極的に公の場で取り上げることができる。パートナーシップとコミュニティの関与はまた、外部の人がプロジェクトを運営していたのでは見逃されがちな対策に対する「オーナーシップ」の意識を根付かせることにもなる。

 規模の小さいコミュニティ・ベースの組織は、政府機関に比べ、官僚的であることを免れ、新たな状況にすばやく柔軟に対応することができる。コミュニティ・ベースの組織が実施する試験的プログラムが地方レベルで成功すれば、政府はそれを全国レベルに拡大することも考えられる。たとえば、中国では、男性とセックスをする男性が、HIVなどの問題に関する情報と支援を提供するためのホットラインを開設している。中国政府は2007年までに、このグループと協力し、彼らを支援するため資金援助プログラムの重要性を認識するようになった。

 いくつかの国では、コミュニティの活動家が、特定の行動を違法とするような法律を改めるなど、偏見と差別に基づく障壁を克服しようと努めてきた。しかし、法改正と人権確保の強化を有効なものにするためには、さらに力を入れていく必要がある。コミュニティ・ベースの組織が参加することで、サービスを効率的に提供できるようにもなる。世界基金による148件の助成案件を対象にした調査では、政府が代表して助成金を受領する場合は、非政府組織が代表して受領する場合より3カ月以上、事業の進捗が遅いことが分かった。

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